諸関税の利益への影響は10億ユーロ(1600億円)
BMWの会見では、関税の影響についても繰り返し質問が出ました。同社は3月12日時点で実施されている諸関税の影響は年間で10億ユーロに上り、ROS 1%分の影響だとして2025年の業績見通しに織り込んでいます。
2025年のROS予想は5〜7%ですが、関税がなければ6〜8%のレンジになります。内訳は、中国生産EVの欧州への輸入追加関税と米国生産車の中国への輸出(とその逆)が、それぞれ数億ユーロ(数百億円)の影響。メキシコやカナダから米国への輸入関税(BMWのメキシコ工場生産車はUSMCA*の適応外で3月から25%課税対象)が1億ユーロに近い数千万ユーロといった具合です。*米国・メキシコ・カナダの非関税協定
ツィプセ氏は、欧州、中国、米国の3大市場でそれぞれ高い現地生産比率を達成していると自負しており、これを「ローカル・ツー・ローカル」と呼んでいますが、EU生産車の米国輸入に対する追加関税が実施されれば(例えば現状2.5%が10%に上がる)、それに柔軟に対応する(現地生産車種を増やす)としています。
一方で、X3からXMまで一連のSUVに集中して生産している米国工場の出荷の約半数は海外に輸出(2024年は100億ユーロ)、ドイツ生産100万台も56%をEU外に輸出し、中国からX3やMINIクーパー(BEV)を欧州に輸出するなど、3つの主要生産拠点からのグローバルソーシングが活発です。当然、関税の影響も大きいはずで、基本理念として「自由貿易」を声高に主張するのは理解できます。

1994年に竣工した米国サウスカロライナ州のスパータンバーグ工場で生産されるX3。2024年に40万台を生産した同工場はBMWの生産拠点で世界最大規模。(写真:BMW AG)
EUの2025年のCO2排出量規制は3年間猶予。関税戦争は新たな難題
EUは2025年から15%厳格化されるCO2排出量規制を年ごとではなく、2027年までの3年間を合算して適用する方向で緩和します。2026年に予定していたCO2排出量規制の全体的なレビューも、2026年から2025年中に前倒しする予定です。ただ、3月5日に欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が発表したEU自動車産業の競争力を強化するための「行動計画」には他はあまり新鮮味はないようです。
米国が関税によって自国市場の要塞化を本気で進めるならば、欧州メーカーも現在のサプライチェーンやソーシング戦略の見直しが必要になります。ドイツ自動車メーカーは、トランプ関税という新たな頭痛の種について「時限的な問題で済む」と想定している節がありますが、EVバッテリーや半導体の欧州域内生産化、中国製EVへの追加関税などの保護主義的政策はEUが始めたものでもあります。トランプ政権の関税を必ずしも非難できる立場にないと言えるかもしれません。(了)
●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年ヴイツーソリューション)がある。