フォルクスワーゲン(VW)グループが2025年3月11日に発表した2024年の決算は、売上高(3250億ユーロ=52兆円 ※)は対前年比で微増(+1%)でしたが、営業利益(191億ユーロ=3兆円)は高水準の研究開発や設備投資、中国市場での販売の落ち込み(−9.5%)などの影響で−15%の減益となりました。また、同月14日に発表されたBMWの決算も、EV販売は伸びたものの、中国市場の不振などで売上高と営業利益ともに減少しています。EVやSDVへの開発投資や国内メーカーとの競争が激化する中国市場の対応を迫られている両社の現状を決算から探ってみます。※:1ユーロ=160円で計算(タイトル写真:2024年に世界で54万台を販売したVWのベストセラー、ティグアン)

異例のドイツ政府への自動車産業政策の提言

VWは、2月の連邦議会選挙の結果を受けてCDU(キリスト教民主同盟)とSPD(社会民主党)を中心に近く組まれる連立政権に対して、ドイツの自動車産業の危機を救う政策を要請する一企業としては異例の書簡を送ったと独・ハンデルスブラット紙は報じました。

「競争力あるドイツの自動車産業のためのマスタープラン」と題されたこの書簡では、EV普及のための奨励策や、バッテリー製造などドイツ国内の生産コストを低減するために産業用電力を1kWhあたり6セントに引き下げること(現状は割引料金で11〜12セント)、2027年まで先送りとなった2025年からのCO2排出量基準の適用を5年間猶予するなど12の提言がされているようです。

2020年代末まで遅れたSSP(スケーラブル・システム・プラットフォーム)による新世代EVの発売まで4年以上あるVWにとって、当分はEV販売の大きな増加は見込めず、利益率も改善しないという苦しい台所事情がこの提言書に表れているようです。

BMWも中国市場が足を引っ張り大幅減益

3月14日にはBMWが決算会見を開きました。ドイツプレミアム3ブランドの中で最も順調と思われたBMWですが、2024年第3四半期に表面化した統合ブレーキシステム(IBS)のリコール(150万台とも言われる)や、中国市場での苦戦のため売上高は1420億ユーロ(前年比−8.4%)、経常利益は109億ユーロ(同−35.8%)とメルセデス・ベンツ、VWと比較しても最も落ち込み幅が大きくなりました。

画像: BMWとメルセデス・ベンツ乗用車部門の2024年の業績比較。BMWは販売台数で差を広げているが、利益率ではまだメルセデス・ベンツが勝る。

BMWとメルセデス・ベンツ乗用車部門の2024年の業績比較。BMWは販売台数で差を広げているが、利益率ではまだメルセデス・ベンツが勝る。

減益の最大の要因は中国市場で、2024年の販売台数は71万5200台と前年の82万6300台から−13.5%減少しました。中国ブランドとの競争激化による販売単価の低下や過剰在庫処理コスト、販売店の整理統合費用などで20億ユーロ以上の損失があり、中国プレミアム市場でトップのBMWも想定外の苦戦を強いられています。

他社は人員削減や生産能力の調整に着手していますが、BMWはドイツや中国でのリストラや工場縮小などは表明しませんでした。「アニュアルレポート2024」によると、中国の現地生産車の2024年の販売台数は58万6000台で、前年から10万6000台(−15.4%)減少しており、通常なら生産能力の調整に着手しても不思議ではありません。2025年後半にハンガリーで量産を開始し、その後に米国や中国、ドイツで生産を始めるノイエ・クラッセが追加されるためでしょうか。

EVの世界販売は42万6594台(+13.5%)でメルセデス・ベンツとアウディの合計より多く、販売に占める比率は17.4%に達しました。期初目標の20%には届きませんが、16万台を販売したPHEVを含めると4台に1台がx EVとなり、「テクノロジーオープン」と同社が呼ぶマルチパワートレーン戦略は功を奏しています。これにより、2024年の欧州販売での平均CO2排出量は99.5g/kmで、同社のクリアすべき基準より30gも少ないとオリバー・ツィプセCEOは胸を張りました(2025年基準も十分クリアできるレベルでしょう)。

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