自動運転については、5〜6年ほど前までは2020年代半ばには「レベル4」(※1)が実現するといわれ、自動車メーカーがハンドルのないコンセプトカーを発表したり、無人のロボットカーがサーキートを全開走行したりして開発競争がヒートアップし、LiDARなどの高価なセンサーのスタートアップも次々と誕生していました。今日では完全自動運転の実現の見通しは、2030年代に先送りされた感がありますが、「CASE」といわれる自動車産業の100年に一度の変革の中で、E(Electrification=電動化)やC(Connected=つながる)とともに注目を浴び続ける自動運転システムの現在地はどうなっているのでしょうか。(タイトル写真はモービルアイのホームページより)※1:米国自動車技術者協会(SAE)の自動運転のレベルの定義(0〜5)によると、レベル4(高度運転自動化)の定義は「特定条件下においてシステムが全ての運転タスクを実施。利用者が介入を求められることはない」とされる。

「レベル3」の量販車一番乗りはメルセデス

ドライバーが一時的にでも運転業務から解放され、道路から目を離してメールをチェックしたりビデオを見たりできる「部分的自動運転」、つまりSAEの定義による「レベル3」を、誰が一番最初に実用化するのか。筆者が勤めていたアウディも、最上級セダン「A8」に2017年に量産車としては初めてLiDAR(ライダー)を装着し、高速道路に限って時速60キロ以下の渋滞時に「ハンズオフ・アイズオフ」を可能にし、ドライバーが一定時間内に運転に戻ることができるという条件付きの「レベル3」の自動運転システムの開発を完了したと発表し、話題となりました。

結局、国連の技術認証委員会での合意や、各国政府の道路交通法の整備を待たなければ実現できないといった理由で、A8のレベル3は日の目を見ずに終わりましたが、2021年にホンダがアウディの命名と同じ「トラフィックジャムパイロット」という機能を高級セダン「レジェンド」で導入して「世界初のレベル3」を宣言しました。ただし、これは日本国内のみ限定100台のリース販売でした。

量産車としてレベル3システムを最初に市場に導入したのは、ドイツのメルセデス・ベンツで、EQSとSクラスに5,000ユーロを超えるオプション「ドライブパイロット」を昨年からドイツで販売しており、アメリカでもネバダ州とカリフォルニア州で認可を得て、時速40マイル以下の渋滞時に部分的自動運転が可能なシステムを、今年中に販売開始する見込みです。またライバルのBMWも、今年中に7シリーズでレベル3システムを欧州市場に導入する予定です。

画像: メルセデスベンツは2024年モデルのEQSとSクラスで、時速40マイル(64km/h)以下でレベル3の部分的自動運転が可能な「Drive Pilot」を米国市場に導入する。(写真:メルセデス・ベンツ)

メルセデスベンツは2024年モデルのEQSとSクラスで、時速40マイル(64km/h)以下でレベル3の部分的自動運転が可能な「Drive Pilot」を米国市場に導入する。(写真:メルセデス・ベンツ)

テスラのFSDはドライバーの監視が必要なレベル2

テスラは、2014年に「オートパイロット」と呼ぶところのADAS(先進運転支援システム)を導入し、2020年FSD(フルセルフドライビング)というソフトウェア(β版)を追加しました。いかにもドライバーの監視が必要ない自動運転が可能という印象を与えるネーミングですが、実際はレベル2のシステムです。FSDは当初はレーダーも搭載していましたが、現在は8つのカメラのみのシステムで(イーロン・マスクCEOは、従来からLiDARは無用であると主張)、今春のインベスターデイでも、年内にも完成版のFSDを提供できそうだと発言しましたが、実際にレベル3やレベル4の定義に沿ったシステムを導入するとはちょっと考えにくい状況です。

このほかにも、Google傘下のウエイモ(Waymo)やGM傘下のクルーズ(Cruise)は、アリゾナ州のフェニックスやサンフランシスコ市内でロボタクシーサービスを行っており、両者ともに完全無人の車両で終日の有料タクシーサービスを認可されたばかりです(但し、クルーズについては緊急車両の走行妨害があったとして、サービス台数と時間帯を制限されました)。

これらの車両は、カメラに加えてレーダーやライダーを何台も搭載し、定められた地域内を運行するサービスで、ドライバーの意思でどこにでも出かけていく自家用車のADASや自動運転システムとはやや領域を異にするといえます。

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