欧州委員会は3月、2021年から義務付けられた車載コンピュータのデータ60万件の分析結果として、内燃エンジン車やプラグインハイブリッド車(PHEV)などのCO2排出量を発表しました。自動車メーカー各社から集められたデータによれば、ガソリン車やディーゼル車の実際の排出量と認証値の差が+20%前後だったのに比べ、PHEVではこれが平均で3.5倍にも上るという結果でした。PHEVの場合、想定したよりも遥かに低い頻度でしかEV(モーター)走行がされていないことが明らかになりました。(タイトル写真はボルボのPHEVラインアップ)

PHEVのCO2排出量の矛盾はこれまでも調査機関が指摘

PHEVが実際には認証値を大幅に上回るCO2を排出しているという主張は、これまでもベルギーの本拠を置く環境NGOであるT&E(Transport & Environment)や、フォルクスワーゲンのディーゼル排ガス不正事件の発端となるテストを行ったICCT(※1)などの検証でも指摘されていました。例えばT&Eは、2023年初めにオーストリアのグラーツで、BMW3シリーズ、プジョー308、ルノーメガーヌのPHEVの市街地走行(55km)テストを行い、EVモードでの走行可能距離はメーカーが主張するレンジの5〜8割程度であったり、バッテリー残量ゼロで走行すると認証値の5〜7倍ものCO2を排出しており、PHEVへの政府の補助金は廃止すべきだと提言していました。※1:International Council for Clean Transportation. 米国で2001年に設立された国際的な環境・エネルギー調査研究NGO

今回のEUの発表は、いみじくもこれらの先行する調査を裏付ける形となり、欧州で販売されているPHEVモデルの認証値の平均CO2排出量が39.6g/kmのところ、2021年に登録されて路上を走った車のデータでは139.4g/kmと3.5倍も排出されていたことが判明したのです。

画像: (欧州委員会の発表資料より作成)

(欧州委員会の発表資料より作成)

実際はEVモードでの走行はずっと少ない

PHEVのCO2排出量を決めるにあたっては、バッテリーの電気を使用して(charge depleting)走行する割合をどの程度と見るかというUF (Utility Factor−ユーティリティファクター)の設定が重要な役割を果たします。現在(2021〜2024年)のEU基準ではこれを70〜85%と高い比率で見ていますが、実際には個人ユーザーは45〜49%、企業フリート(社用車)のドライバーは10〜15%しかEV走行していないとICCTは2022年に指摘しています。現在の欧州でのPHEVの顧客の70%は企業向けフリートなのでこの乖離は重大で、PHEVは実際には認証値の3〜5倍ものCO2を放出していることになります。この問題に対応するため、EUはUFを約50%に厳格化して個人向け車両には2025年から適用、2027年には法人向け車両も含めてさらにUFの改訂を行う予定です。

画像: (実際のEV走行の割合に近づけるよう欧州委員会は今後UFを下げていく。T&Eの2022年の発表資料より転載)

(実際のEV走行の割合に近づけるよう欧州委員会は今後UFを下げていく。T&Eの2022年の発表資料より転載)

EUによるリアルワールドデータの収集は今回が初めてで、サンプル数は2021年の全乗用車の登録台数の7.2%に過ぎないためデータの精度には改善の余地があるとしていますが、これまで民間の調査機関で指摘されたPHEVの実際のCO2排出量が明らかになったことは大きな意味がありそうです。

EUのCO2排出規制では、乗用車のCO2排出量は現在の115g/km(以前のNEDCサイクルでは95g/km)から2025年以降93.6g/kmに厳しくなりますが、これと同時にPHEVのUFも大幅に下がるため、自動車メーカーはこれをクリアするのは特に初年度は大変です。2025年からの達成が難しいとBMWやVWのトップが公言しているのはこうした事情があります。

画像: 3年連続で欧州PHEV販売No.1のフォードのコンパクトSUVクーガ。2023年は5万4000台を販売した。第2位以下は、ボルボXC60、KIAスポルテージ、メルセデスGLCと続く。

3年連続で欧州PHEV販売No.1のフォードのコンパクトSUVクーガ。2023年は5万4000台を販売した。第2位以下は、ボルボXC60、KIAスポルテージ、メルセデスGLCと続く。

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