自動運転については、5〜6年ほど前までは2020年代半ばには「レベル4」(※1)が実現するといわれ、自動車メーカーがハンドルのないコンセプトカーを発表したり、無人のロボットカーがサーキートを全開走行したりして開発競争がヒートアップし、LiDARなどの高価なセンサーのスタートアップも次々と誕生していました。今日では完全自動運転の実現の見通しは、2030年代に先送りされた感がありますが、「CASE」といわれる自動車産業の100年に一度の変革の中で、E(Electrification=電動化)やC(Connected=つながる)とともに注目を浴び続ける自動運転システムの現在地はどうなっているのでしょうか。(タイトル写真はモービルアイのホームページより)※1:米国自動車技術者協会(SAE)の自動運転のレベルの定義(0〜5)によると、レベル4(高度運転自動化)の定義は「特定条件下においてシステムが全ての運転タスクを実施。利用者が介入を求められることはない」とされる。

物体の意図(Intention)を見極めて運行戦略を決定

3つ目の、運転ポリシーについては、「センシング→プランニング→実行」の3段階で行われます。このうち、プランニング、Driving Strategyとも呼ばれる部分が最も重要です。センサーが検知した車両や歩行者が次にどの地点に動くかを、全ての可能性を計算していると膨大なコンピューティング能力が必要になります。モービルアイは、これを予測(prediction)ではなく、意図を見極める(determine intent)ことによって、その物体がどの方向に動くかを判断して走行プランを決定するというものです。機械学習による何百万もの類似ケースの分析によって可能になっていると思われます。

以上の3つの他に4つ目の要素としては、規則(regulation)が上げられています。たとえば、60km/hの制限速度の道で流れが70km/hだったらAVはどうするのか。規則を遵守して渋滞を引き起こすのか、流れに準じて走るのかといった判断です。モービルアイのシステムは、たとえば工事現場や停車車両が障害物になっている場合、これを避けるために(人間のドライバーがするように)はみ出し禁止の中央車線を一時的に越えて走行するといった判断もします。こうした人間と同様の判断をAVに許容するかどうかは、各国(州)の法規に委ねられるのが現状ですが、モービルアイは、より人間の運転に近いAVの運行ルールを行政側に認めるように促すことができます。

画像: 走行車線をブロックしている緊急車両を対向車線に出て追い越すモービルアイのロボタクシーテスト車両(YouTubeで365万人が登録するEngineering Explainedの動画“Are Autonomous Cars Closer Than You Think?”より)。

走行車線をブロックしている緊急車両を対向車線に出て追い越すモービルアイのロボタクシーテスト車両(YouTubeで365万人が登録するEngineering Explainedの動画“Are Autonomous Cars Closer Than You Think?”より)。

以上は、モービルアイのホームページや動画を調べてわかったことですが、自動運転システムの供給シェア8割を誇るという同社は、新興のEVメーカーやレベル4の公共モビリティサービスを求める自治体などのニーズに対して、実にわかりやすくシステムやモジュールを説明しています。

AVにはLiDARは必須か

今回のIAAのメッセでティア1サプライヤーのヴァレオ(Valeo)の自動運転システム担当のエンジニア、ハラルド・バース氏と話をする機会があったので、「カメラだけでAVが可能とするモービルアイやテスラなどもあるが、LiDARはレベル3以上に必須か」という質問をしてみました。

同社製のLiDARであるScala(第一世代)はアウディA8に採用されていたので、その後の動向を聞いてみたのですが、日本にも何度も来たことがある同氏は、「200m先の路上の小さな物体を、避けるべきか踏んでも良いかを判断することはカメラにはできないのでLiDARは必須」という回答でした。

現在のScala3は低反射の物体で200m、高反射の物体なら300m先まで検知できるということなので、130km/hの高速道路の運行を考えるとLiDARは必須ということのようです。ちなみにレベル3システムを搭載するメルセデス・ベンツ車には、ヴァレオ社のLiDARが搭載されています。

「聞くクルマ」も開発中

もう一つ、ドイツの誇る研究機関フラウンホーファー(Fraunhofer)研究所の展示では、Hearing Car(聞くクルマ)という技術を紹介していました。カメラやレーダーなどのセンサーはいわば人間の目に当たるものですが、集音器を10個以上も備えるHearing carは耳を持つクルマです。

なぜそれが必要なのかと尋ねたところ、救急車や消防車などの緊急車両を的確に認識して回避行動を取ったり、住宅地で子供の遊ぶ声に耳を澄ませたり、車両の異常を知らせるノイズなどをいち早く察知して自動運転車両の判断を助けるためということでした。

既に、メルセデスのレベル3の車両には緊急車両検知用の集音マイクが搭載されていますが、特に今後市場に出てくる自動運転車両には、視覚センサー類だけでなくHearing carの技術が必要になってくるようです。(了)

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。

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