GMやフォードがEVへの投資の先送りを決めた米国と同様、欧州市場でも金利の高騰や政府の補助金の減額などによりEV販売の頭打ちが見られます。ドイツのフォルクスワーゲン(VW)はEV工場での減産を余儀なくされ、メルセデス・ベンツもEV販売の熾烈な競争の収益へのインパクトを憂えている中で、フランスのルノーやスティランティス傘下のブランドは、これから2万ユーロ台のスモールEVを次々に投入します。これらは、EV市場を再点火する起爆剤になるのでしょうか。(下の写真はルノーのEV事業部門であるアンペアが2026年までに投入するラインアップ)

20,000ユーロ以下のEVも2026年以降に登場

さて、アンペア社の事業説明会で発表された新型トゥィンゴのEVですが、補助金前で2万ユーロを切るとされており、価格的にガソリンモデルとほぼ遜色なくなります。フォルクスワーゲンも2万ユーロ以下のEVを2020年代後半に導入すると示唆しており、これにはバッテリーやEVコンポーネンツの供給先として話が進むインドのマヒンドラ&マヒンドラとの提携が絡みそうです。10年ほど前にスズキとの提携がわずか2年で破局したVWですが、もしマヒンドラとの共同開発車となれば、インドにおける戦略モデルと位置付けられるとともに、欧州では人気のうちに今年生産が終了した「e-up!」の後継となるAセグメントカーになる可能性があります。

インドといえば、2030年に新車販売の30%をEVにするという目標を掲げており、将来的に自動車生産の重要拠点になることが予想されます。インドで40%を超えるシェアを持つマルチスズキは、すでにジムニーなどを中南米やアフリカに輸出していますが、2025年には日本にもSUVタイプのEVを輸出する計画が明らかになっています。また、先日発表になったホンダのコンパクトSUV「WR-V」はガソリン車ではありますが、全量がインド生産です。世界の自動車メーカーの視線は、新エネルギー車(NEV)で国内メーカーが外国ブランドを駆逐しつつある中国から、未来の自動車大国インドに注がれつつあると言えそうです。

画像: 昨年新車販売台数で日本を抜いたインドのEV市場は1%強だったが急速に伸びており、2030年にシェア30%の目標を掲げている。インド政府はテスラの工場誘致にも熱心だ。写真はEV販売台数トップのタタ社のNexon EV。(同社facebookより転載)

昨年新車販売台数で日本を抜いたインドのEV市場は1%強だったが急速に伸びており、2030年にシェア30%の目標を掲げている。インド政府はテスラの工場誘致にも熱心だ。写真はEV販売台数トップのタタ社のNexon EV。(同社facebookより転載)

スモールEVが次なる起爆剤の予感

高級車ブランドやコンパクトクラスのEVが期待したほどの成長を示していない中、アンペアやシトロエン、フィアットなどのスモールEVは、欧州のEVマーケットを次なる拡大フェーズに導く起爆剤になるかもしれません。スモールカーは、それほど長距離のレンジを必要とせず、下取りで値落ちしても高級車ほど損失は大きくありません。e-C3のホームページでは、3年のリースで走行3万キロ以下で月99ユーロ以下という破格の購入プラン(※2)が宣伝されていますが、自動車メーカーは残価の維持にも気を配っています。※2:EVのエコロジーボーナスや古いエンジン車の下取り補助金などを含む。

高級EVや価格の高いコンパクトEVは、ドイツや英国、スイスや北欧諸国など世帯所得が高い国々で先行して売れており、イタリアやスペインでは増加しつつあるとはいえEV比率はまだ5%程度に過ぎません。2万ユーロ前半で買える魅力的なスモールEVが今後投入されることで欧州のEV比率は20%台に達し、その後、アンペアが目指す2027/2028年にCセグメントでエンジン車と同等のコストまで下がれば、そこから本格的な普及期に入ることも期待されます。アンペア社は2030年の欧州のEVシェアを75%と予想し、7車種で100万台のEVを販売して、市場の75%を占めるB+Cセグメントで10%のマーケットシェアをとる目標を立てています。

画像: アンペア社が2027/2028年に投入する第2世代のCセグメントEVは、コストを40%削減してエンジン車と同等の価格を実現する計画だ。

アンペア社が2027/2028年に投入する第2世代のCセグメントEVは、コストを40%削減してエンジン車と同等の価格を実現する計画だ。

投資家デーのQ&Aの最後に、「現在EV市場は予想より減速しているが今後どのようなスピードで普及すると考えるか」と聞かれたデメオCEOは、「ディーゼルやハイブリッドの普及のスピードを思い起こしても、年に4〜5%のシェア増加というEVの普及のスピードは早い。(2035年には)EV100%ではなく、80%かひょっとしたら60%かもしれない。それでも輸送部門の電動化は構造的な変化(movement)であり列車が引き返すことはない。なぜならそれは法律があるからだ」と締めくくりました。(了)

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。

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