事故の顛末と当局が許可を停止した理由
この事故は、10月2日、サンフランシスコの中心部のマーケットストリートと5th.の交差点で起こりました。信号待ちでクルーズの左のレーンに停車していた車両が発進したところ、赤信号で横断してきた歩行者を跳ね上げ、その歩行者がクルーズの進路に落ちてこれを轢いて停止。その後、車両下の歩行者を引きずるように20フィート(約7m)走行して路肩に止まったということです(歩行者は重症)。クルーズは、当初、同社のAV(※2)は人間より素早くブレーキをかけたが間に合わなかった。最初に歩行者を轢いた車両がAVであれば事故は防げたと、AVを擁護するような声明を出していました。※2:Autonomous Vehicle
しかし、DMVは、クルーズの無人AVが公道運行の安全性を満たしていないこと、同局へ正しく情報を提供しなかったことを理由に、無人のAVの運行を中止する命令を10月24日に出したのです。後者は、連邦政府のNHTSAには報告された被害者を引きずって路肩に寄せた部分のビデオが、10月3日のDMVへの報告においては割愛されていたことが問題とされました。これに対してクルーズは、ビデオはすべて共有しているとコメントしていますが、この点を当局と言い争うことは賢明とは思えない、と米国のメディアも指摘しています。
さすがに事態を重くみたクルーズは、運行停止命令から2日後に全米各都市に配備していたロボタクシーの運行を一斉に中断することを発表。安全性を再チェックすると社内にも伝達した模様です。
識者の見方は「会社の信頼の根幹に関わる問題」
本件に関して、米オートモティブ・ニュースの記者は、サウスカロライナ大学の法学教授のブライアン・ウォーカー・スミス(Brian Walker Smith)教授にインタビューをしています。同教授は世界で標準となっているSAE(米国自動車技術者協会)の自動運転のレベルの定義の共同執筆者で、「これはクルーズという会社が信頼に足るか(trustworthiness)の問題だ」とコメントしています。
スミス教授は、クルーズのような企業は、「安全の哲学について説明し、安全に運行できるという約束を社会(パブリック)に対して行い、その約束を守るべく行動してこそ信頼を得られる」としています。つまりクルーズは、この事故について規制当局やメディアに対して、事故の原因分析と対策について納得できる説明ができなければ信頼の回復はない、ということです。
しかしながら、クルーズのホームページを覗くと、トップページで本件に関して説明や謝罪をしているかと思いきや、それは最下段にある「News」の中の10/24付のブログで触れられているに過ぎません。本当に真摯に受け止め、社会の信頼を得ようとするなら、トップページで本件を説明すべきでしょう(この記事執筆中の11/8に新しいブログポストでリコールと対策が発表され、これはトップページから直接リンクが貼られた)。
クルーズはかねがねAVはヒューマンドライバーより安全と主張していますが、スミス教授は、「総論はそうだとしても、個々の事例で最適な対応ができるかも問題となる。今回、被害者を車両の下に引きずったまま路肩に運行するのが法律の要請する『安全性のリスクを最小限』にする対応だったとは思えない」と技術的にも課題があると述べています。