※Cox Automotive調べ
トランプ政権の方針と市場に機敏に対応するGM
話はGMに戻りますが、同社はトランプ関税を要因とする減益が40〜50億ドルに上るとして、2025年度の営業利益の見通しを20%以上引き下げて「100〜125億ドル」としましたが、バーラ会長は政権への批判をひと言も述べませんでした。「アメリカの強い自動車産業というトランプ政権の方針を支持してこれに貢献する」とともに、これは「経済的のみならず国家安全保障上も重要」と100%賛意を表して、今後も政府と腰を据えて対話を続けるとしました。
かつて大宇自動車を傘下に持っていたGMは、韓国からシボレーのコンパクトクロスオーバーSUVであるトレイルブレイザーやトラックスを輸入しており、完成車への輸入関税27.5%により20億ドルの影響を見込んでいます。また、メキシコやカナダからの輸入についても、USMCA(米国メキシコカナダ協定)に8割が準拠してはいますが、米国産以外の部品への課税で20億ドル以上の影響を想定しています。
GMは、関税による減益を緩和する策として、大型トラックやSUVを生産するインディアナ州の工場の生産を今年5万台上乗せし、サプライヤーの調達品を米国製へ切り替えることを促すことで、30%は相殺できる見込みです。また、以前よりモーターに使われるレアアースや電池の正極素材、リチウムなどの国内調達に動いており、2027年に生産を開始するネバダ州のリチウム鉱山に6.5億ドルを出資しています。
GMが米国市場の半分を握っていた1950年代、同社社長が議会の公聴会で「GMにとって良いことは、アメリカにとって良いことだ」と発言したことは語り草になりましたが、GMのスタンスは、米国への製造業の回帰を目指すトランプ政権とがっちり歩調を合わせていることを窺わせました。

かつて堅牢な中型SUVだったシボレー トレイルブレイザーは、1.2Lエンジンを搭載する韓国製コンパクトSUVとなって米国に輸入されている(Chevroletホームページより転載)
政治だけでなく、EVシフトでも袂を分かつ米国と欧州
欧州は中国に対して、米国ほど断固とした態度を取ることは難しそうです。中国製EVに追加関税をかけたものの、世界販売の3割以上を中国市場に依存する自動車メーカーを抱えるドイツは、「自由貿易が基本」というスタンスで中国製EVへの関税にも反対票を投じました。BYDやチェリーはすでにハンガリーやスペインに生産拠点を確保しつつあり、上海汽車も遠からず欧州内の生産工場を発表するでしょう。NIOやシャオペンといった新興メーカーは知名度不足もあって苦戦していますが、米国市場が実質閉ざされている以上、欧州を簡単にはあきらめるわけにはいきません。
中国ブランドの欧州シェアは今年1〜4月で4.6%と前年同期の2.6%から躍進しており、国内にフォルクスワーゲン、BMW、メルセデス・ベンツという強力な自動車メーカーを持つドイツは別にしても、多くの国でいずれ10%に近づくでしょう。欧州の自動車産業は、米国のように中国とデカップリングを図ることは困難です。

今年4月にポーランドで販売を開始したシャオペンは、4月の欧州販売台数が1665台(+270%)と躍進したという(写真は同社プレスリリースより)
欧州内でも、EVシフトやグリーン政策に反対する右派政党の台頭を受けて、2035年のICE車販売禁止に対する反発が高まっていますが、今のところ、欧州委員会はその方針を撤回する様子はありません。筆者も2035年にICE車の販売を排除することは難しいと考えますが、IEAが予想するように2030年に「EV+PHEV」が5割を超える可能性はありそうです。
米国のドライバーが1年間に走行する距離は2万kmを超えますが、欧州では国によって差はあるもののおおむね1万km程度です。現在の車載バッテリーの性能と航続距離、充電インフラを考えると、アメリカでは大部分の地域でハイブリッドを含むICE車が適していると言えます。一方で、多くの都市が歩行者や自転車に優しい街づくりに向けてモビリティシフトを進めている欧州では、EVがより受け入れやすい環境にあります。このように、「米国第一主義」を掲げ、欧州への経済的、安全保障的関与から後退しつつある米国は、EVシフトの道程においても欧州とは袂を分かっていくことになりそうです。(了)

ミュンヘン中心街の道路では歩行者や自転車が優先され、トラムが走る。EVは都市の騒音を減らすことにも貢献する。
●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在を経て、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年ヴイツーソリューション)がある。



