第二次トランプ政権の発足後100日が過ぎ、ウクライナ戦争の調停から移民の強制送還、有名大学への抑圧や荒っぽい関税外交と、世界はその目まぐるしい動きを追いかけるのに疲れてきた感があります。友好国に対しても高い関税を課して、米国に製造業を回帰させるという政策が身を結ぶかどうかはまだ見通せない状況ですが、バイデン前政権のEV優遇政策を廃棄する方針の影響はすでに出ており、米国の2025年1〜4月のEV販売台数は約40万台で前年同期比で−5.6%、マーケットシェアは6.9%(※)となっています。一方で、2024年のEV販売が144万台(前年同期比−5.9% ※)と失速したEUは、今年1〜4月は約56万台(同+26% ※)と回復してきました。国際エネルギー機関(IEA)が、5月に発表した「世界EV見通し2025(Outlook for electric mobility)」では、2030年の米国市場のEV(含むPHEV)シェアは50%から20%に大幅に引き下げられたのに対し、欧州は57%、中国に至っては80%と予測されており、米国とのギャップが際立っています。この背景にある市場や自動車メーカーの最近の動きを見てみます。(タイトル写真:GMのメアリー・バーラ会長とキャデラックのEV リリックの映像)
※Cox Automotive調べ

GMやホンダが米国市場でのEV投資を延期

GMは従来、ニューヨーク州バッファロー市近郊の工場で電気モーターの生産に3億ドル投資する計画でしたが、この方針を転換し、同工場で新型V8エンジンを生産するために8.8億ドル(1280億円 ※)投資すると5月27日に発表しました。同社のドル箱車種であるシボレー シルバラードをはじめとする大型ピックアップトラックやSUVに搭載するエンジンで、EVからエンジン車(ICE)へ投資を切り替えたことになります。GMは2024年12月にも、ミシガン州ランシングにある韓国LGエナジーソリューション(LGES)とのリチウムイオン電池生産合弁会社の持株分(10億ドル)をLGESに売却することで合意しており、EV投資の抑制とICEへの振り替えを進めています。※1ドル=145円で換算

5月1日の2025年第1四半期(Q1)決算のオンライン会見で、GMのメアリー・バーラ会長兼CEOは、「顧客からの需要に合わせて、昨年末からEVの生産を調整(moderated)している」と語り、「生産台数を増やせばEVの損益分岐点は下がるが、販売奨励金を積んで無理に販売はしない」方針です。

GMが昨年発売したシボレー エクイノックスやブレイザーなどのEVの販売は順調で、キャデラックでもリリックやオプティック、エスカレードIQなどEVの販売比率は2割に達しており、同社のQ1のEV販売台数(3万1887台、前年同期比+94%)は、テスラに次いで第2位です。それでも、バーラ会長は「現在のEVのポートフォリオをさらに拡大する計画はない」と述べました。

EV投資については、フォードやステランティスもブレーキをかけているほか、GMのアルティウム電池を使った「ホンダ プロローグ」や「アキュラ ZDX」を昨年発売したホンダは、カナダで計画していたEVの生産とサプライチェーンへの大規模投資(約1兆6000億円)を最低2年間延期すると今月発表しました。

画像: ホンダはカナダオンタリオ州で計画していたEV生産の大規模投資を最低2年間延期すると発表(写真は、今年1月のラスベガスCESで披露された「ホンダ 0(ゼロ)シリーズ」のサルーン)

ホンダはカナダオンタリオ州で計画していたEV生産の大規模投資を最低2年間延期すると発表(写真は、今年1月のラスベガスCESで披露された「ホンダ 0(ゼロ)シリーズ」のサルーン)

バイデン前政権によって制定された2032年のCO2排出規制や企業平均燃費基準(CAFE)を、トランプ政権が緩和するのは必至であり、カリフォルニア州独自のゼロエミッション規制を無効にする法案が近く米議会上院でも採決される見通しです。米国のEVシフトが大幅に遅れることは明らかで、自動車メーカーの投資戦略の修正やIEAのEVシェア見通しの大幅な引き下げはこれを反映しています。

画像: 2030年EVシェア予測(水色がEVで青がPHEV。出典:IEA)

2030年EVシェア予測(水色がEVで青がPHEV。出典:IEA)

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