時速300km超の中国新幹線で常州に
上海虹橋(ホンチャオ)空港には、新幹線や都市間鉄道、地下鉄のなど30線が乗り入れる巨大なターミナル駅が隣接しています。そこから最高時速300kmを超える中国版の新幹線に乗り、わずか48分で170km離れた常州北駅に到着します。常州市は人口約500万人で上海や南京、杭州などを含む長江デルタ地帯の一角をなしており、自動車産業の関連工場が多数立地しています。
巨大な飛行船のような形をした常州北駅を出て、クルマで道幅の広い道路を30分ほど走った広大な工業団地の中にBYDの常州工場はあります。現在BYDの中国内の工場は10拠点あるそうですが、2021年に竣工して1万人が働く常州工場では、「元プラス(輸出名:Atto3)」や「シール」、「シーライオン7」などの右ハンドル車(日本、タイ、オーストラリア、英国などRHD市場向け)が生産されています。敷地内に第2工場を建設中ということで、建屋の鉄骨が立ちつつある区画もありました。

まるで空港のように広い上海虹橋駅コンコース。16面あるホームへの入場にはそれぞれのゲートで荷物検査と外国人はパスポートチェックが必須。

常州市に林立するマンション群(新幹線から撮影)

常州北駅の外観。

常州北駅の広いホーム。
見学したのは、車体工場と総組(最終組立)工場です。車体工場では、日本の工作機械メーカー ファナック(FUNUC)やスイスのABB、ドイツのクーカ(KUKA)などお馴染みの溶接ロボットが400台以上活躍しており、結構な火花を飛ばしながらボティの接合を行っていました。ボディのBピラーやサイドシルに熱間成型の超高張力鋼板やハイテンを多用した車体構造、ルーフパネルとサイドパネルの接合は見栄えの良いレーザー溶接で行うなど、2012年に発売されたフォルクスワーゲンの7世代目ゴルフの車体工場で見た技術と似通っています。
車両組立は通常のコンベアラインで、ラインへの部品供給には一部に自動搬送車(AGV)も導入しています。職場ごとの品質状況、出勤率、安全などの実績を掲示し、5S(「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」)を推進、チームミーティングのスペースを設けるといった生産管理の手法は、日本をお手本としているのでしょう。ラインを流れるクルマはEVのみで、しかも同一車種の同一色が何台か続けて流れており、効率化を図っているようです。
フロントガラス装填などロボットも導入されていますが、電池を載せた車台とボディシェルの結合は全自動ではなく、位置合わせの確認は作業者が行っていました。組立工程の自動化レベルは、特に高くはないようです。エンジン(モーター)ルームの内側やセンターコンソールは、傷やダメージを防ぐためか大きめのカバーで覆われていました。
ラインの作業者の数は多めですが、JPH(1時間あたりの生産台数)40台と表示されていたラインスピードは、タクトタイム(※)が1分前後の日本の工場と比べるとかなりゆっくりです。生産台数が急拡大しているので、若い作業者の熟練度や生産管理スタッフの育成が追いついていないのかもしれません。
※:1台の生産に要する時間

常州工場の生産ライン。車体溶接はほぼ自動化され、組立工程もフロントガラスはロボットが装着。

常州工場の生産ライン。車体溶接はほぼ自動化され、組立工程もフロントガラスはロボットが装着。

BYDシーライオン7。

工場内は撮影禁止。見学入口の外には「遅れる者にも手を貸して優秀になれるよう努めよ」という意味の看板がある。

工場内は撮影禁止。見学入口の外には「遅れる者にも手を貸して優秀になれるよう努めよ」という意味の看板がある。