米・欧の技術協力が加速。公道テストを開始へ
欧米とひと括りにしたが、実は欧州の自動車メーカーは自社開発ではなく、米国のバッテリーメーカーとの共同開発を戦略の中心に据えている。メルセデス・ベンツとステランティスグループは「ファクトリアル・エナジー(Factorial Energy)」、フォルクスワーゲングループは「クアンタムスケープ (Quantum Scape)」、BMWは「ソリッドパワー(Solid Power)」といった具合だ。ちなみに韓国のヒョンデ/キアもファクトリアル社と共同開発を行っている。
なかでも、2025年に入って動きを加速しているのが、ファクトリアル社と共同開発を進める独メルセデス・ベンツ、そして米欧のステランティスだ。

ファクトリアル社とメルセデス・ベンツが共同開発した全固体電池セルは「Solstice」と名付けられた。
米国マサチューセッツ州に本拠を置くファクトリアル社は、2024年9月にボストン郊外に全固体電池用としては全米で最大規模の製造ラインを開設したと発表。さっそく、そこで製造された全固体電池セルをテスト用「Bサンプル」としてメルセデス・ベンツに送付した。Bサンプルとはほぼ量産品の一歩手前にある試作品である。
そのエネルギー密度はセルレベルで最大450Wh/kgで、一般的な液系リチウムイオン電池の1.7倍近い。摂氏90度でも安定した性能を発揮するので冷却システムの簡素化が可能になり、同クラスの液系リチウムバッテリー搭載車と比較して重量を40%低減、サイズは33%もコンパクト化できたという。
そして2025年2月下旬、メルセデス・ベンツはこのBサンプルをEQSベースの試作車に搭載して公道テストを開始。EQSに標準搭載される液系NMCリチウムイオン電池は最大航続距離が800kmほどだが、試作車は1000kmを優に超えるという。量産プロトの全固体電池を搭載した市販車ベースの試作車が公道を走るのは世界初だ(専用実験車の公道走行実験はトヨタが世界初)。

ファクトリアル社製のセルをモジュール化/パック化してEQSに搭載する。
さらに2025年4月24日には、ステランティスがファクトリアル社との共同開発に目途がついたことを発表した。電池セルのスペックはメルセデス・ベンツの「Solstice(ソルスティス)」と同等。エネルギー密度375Wh/kgを達成し、18分で15%→90%の急速充電が可能であるという。2026年までに実車(ダッジ チャージャー デイトナ?)への組み込み作業および検証作業を終了し、同年中に公道での実走テストを開始する予定だ。
なお、ステランティスとファクトリアル社は、セルの開発にとどまらず、パックアーキテクチャの最適化、車両統合の改善、全体的な航続距離とコスト効率の向上など、メルセデス・ベンツを凌ぐ協力体制を構築している。

ステランティスも2026年に実走テストを開始すると発表。米国内の公道走行を中心にデータを収集する。
実走テストそのものは短期間で終了するわけではない。航続性能、安全性能、充電性能、劣化の程度など膨大なデータの収集及び検証期間が必要となる。それゆえ、数年以内に市販車に搭載されるとは限らない。しかし、すべてが順調に進んだ場合には、大方の予想よりも早い時期に市場デビューする可能性もある。メルセデス・ベンツ、ステランティスともに具体的な市場投入時期は明言していないが、その実現により近づいていることは確かだ。
