欧州自動車工業会(ACEA)は、2025年1月21日、2024年(1〜12月)の乗用車販売台数を発表しました。スイス、ノルウェーなどのEFTAとイギリス(UK)を含めた総販売台数は、前年比+0.9%の1296万台。EVはマイナスとなる一方、ハイブリッド車は+19.6%と躍進しました。2025年からEUのCO2排出基準が2021〜2024年比で約15%厳しくなるため、多数のメーカーが未達成となり1gにつき1台あたり95ドルという多額の罰金の支払いを余儀なくされる可能性があります。自動車メーカー団体は規制の緩和を要請しており、EUも検討に入るようですが、果たしてどんな対策が打ち出されるでしょうか。(タイトル写真は新型テスラモデルY。同モデルの2024年欧州販売は21万台※(−17%)で2023年の首位から4位に後退した。)

CO2規制は緩和されるか?

2025年のEUの自動車政策は、2025年から93.6g/kmと15%厳しくなるCO2排出量規制をどうするかに焦点が集まります。自動車メーカーの業績低迷やティア1サプライヤーの大規模なリストラに直面しているドイツは、2月の総選挙で第1党になると予想されるCDU(ドイツキリスト教民主同盟)のメルツ党首が、2035年のエンジン車禁止を撤回するよう主張しているほか、選挙で第2党への躍進が噂される極右政党のAfD(ドイツのための選択肢)もCO2地球温暖化説やCO2排出規制によるEVシフトに反対しています。

画像: トランプ大統領の側近として米政府効率化省を仕切るイーロン・マスク氏は、AfD支持を表明しており、2025年1月10日に同党のアリス・ヴァイデル党首とXでライブトークを行った。

トランプ大統領の側近として米政府効率化省を仕切るイーロン・マスク氏は、AfD支持を表明しており、2025年1月10日に同党のアリス・ヴァイデル党首とXでライブトークを行った。

ドイツメーカーの中でも2025年のCO2目標達成が見込まれるBMWは、規制延期は不要としていますが、ACEAの会長に就任したメルセデス・ベンツのオラ・ケレニウスCEOは1月のブリュッセルモーターショーで、2025年のCO2規制に適合するための「不釣りあいな(disproportionate)コスト」の見直しを改めて要請しました。EV購入補助金を続けているフランスでも、産業やエネルギー政策を担当する大臣3名が連名で「レ・ゼコー(Les Echos)」紙に、「中国メーカーやテスラを利するCO2規制の即時停止を求める」意見を1月24日に発表したようです。また、EVシェアがわずか4%のイタリアのメローニ首相はトランプ大統領に近く、かねてより2035年のエンジン車販売禁止に反対しています。

まだまだ高い車両コスト、電気代の高騰、不十分な充電インフラなどで市場のEVシフトが進まないない中、EUもCO2規制の見直しを含む「戦略的対話(Strategic Dialogue)」を自動車メーカーなどと1月30日に開始するとしており、この会議は欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が議長を務めます。域内の自動車産業は1300万人を雇用し、GDPの7%を占めることから「デジタル化や脱炭素化の破壊的変革の中で、欧州の自動車産業の将来を護ることは可及的課題だ」とEUも声明しており、CO2規制の緩和やEUワイドのEV購入補助金などが俎上に上ると予想され、その議論の行くえが注目されるところです。(了)

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年ヴイツーソリューション)がある。

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