CO2規制は緩和されるか?
2025年のEUの自動車政策は、2025年から93.6g/kmと15%厳しくなるCO2排出量規制をどうするかに焦点が集まります。自動車メーカーの業績低迷やティア1サプライヤーの大規模なリストラに直面しているドイツは、2月の総選挙で第1党になると予想されるCDU(ドイツキリスト教民主同盟)のメルツ党首が、2035年のエンジン車禁止を撤回するよう主張しているほか、選挙で第2党への躍進が噂される極右政党のAfD(ドイツのための選択肢)もCO2地球温暖化説やCO2排出規制によるEVシフトに反対しています。
ドイツメーカーの中でも2025年のCO2目標達成が見込まれるBMWは、規制延期は不要としていますが、ACEAの会長に就任したメルセデス・ベンツのオラ・ケレニウスCEOは1月のブリュッセルモーターショーで、2025年のCO2規制に適合するための「不釣りあいな(disproportionate)コスト」の見直しを改めて要請しました。EV購入補助金を続けているフランスでも、産業やエネルギー政策を担当する大臣3名が連名で「レ・ゼコー(Les Echos)」紙に、「中国メーカーやテスラを利するCO2規制の即時停止を求める」意見を1月24日に発表したようです。また、EVシェアがわずか4%のイタリアのメローニ首相はトランプ大統領に近く、かねてより2035年のエンジン車販売禁止に反対しています。
まだまだ高い車両コスト、電気代の高騰、不十分な充電インフラなどで市場のEVシフトが進まないない中、EUもCO2規制の見直しを含む「戦略的対話(Strategic Dialogue)」を自動車メーカーなどと1月30日に開始するとしており、この会議は欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が議長を務めます。域内の自動車産業は1300万人を雇用し、GDPの7%を占めることから「デジタル化や脱炭素化の破壊的変革の中で、欧州の自動車産業の将来を護ることは可及的課題だ」とEUも声明しており、CO2規制の緩和やEUワイドのEV購入補助金などが俎上に上ると予想され、その議論の行くえが注目されるところです。(了)
●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年ヴイツーソリューション)がある。