技術的には注目度大。トラックとしての機能も秀逸
サイバートラックは、テスラとして初めて動力系に800V高電圧システムを、通常12Vの低電圧電装系に48Vシステムを採用するなど、外側だけでなく内側も革新的だとマスク氏は胸を張りました。推定122kWhのバッテリーと3モーター(前1+後2)を搭載した「サイバービースト」は845馬力で、最速のスーパーカーも顔色を失う0→60マイル時の加速2.6秒という超弩級のパフォーマンスを誇ります。また、5.6mの巨体の取り回しを容易にすべく後輪操舵やステアバイワイヤなどを搭載、17インチ(42cm)のグラウンドクリアランスを確保するエアサスペンションを装備するなど機能性にも優れています。
牽引性能においても、ライバルのF-150ライトニング(EV)や最強のディーゼルピックアップトラックF-350、リヴィアンR1Tなどを圧倒する牽引力を動画で紹介しました。
カーゴベッドも少々荒っぽく扱っても塗装した鉄板のように傷つくことはなく、ドアやフェンダーは金属製ハンマーで叩いても凹みません。カーゴスペースの電動トノカバーもついており、240VのACコンセントから、電気コンロや溶接機が使え、住宅にも「パワーウォール」経由で給電できます。これらはトラックとして使い倒すには素晴らしい機能でしょう。サイバートラックのデザインの好き嫌いは別にして、トラックとしての頑強さと実用性、スーパーカー並みのパフォーマンスを一台に詰め込んだ点は、ユーザーにとっても十分魅力的といえそうです。
果たしてサイバートラックは売れるか?
さて、常識破りのデザインから、動力性能、耐久性まで全てスーパーなサイバートラックはどのくらい売れるでしょうか。テスラは予約が200万件とも言っていますが、当初の予約金はわずか100ドルでしたから、興味半分の人も多いでしょう。価格的には、約束された4万ドル以下は空手形で終わりましたが、6万ドルから13万ドルの価格はライバル車と真っ向からぶつかります。
すでにネット上には、サイバートラックのドアに蹴りを入れたり、F-150ラプターR(5.2L V8 SC付700馬力)とのドラッグレースの動画などが掲載されており、これから同様の情報がネット上に溢れるでしょう。それがサイバートラックへの興味とカルト的人気を煽り、年間25万台の販売を難なく達成することになるのか。さらに、不振が伝えられるF-150ライトニングやシボレー・シルバラードEVなどフルサイズピックアップEVの販売の起爆剤になるのでしょうか。
もしくは逆に、サイバートラックの歩行者や対向車への安全上の脅威や、決して地球環境に優しいとはいえないその重量や過剰な性能への批判が高まるのか。米国外の住人である私たちは、FSD(フルセルフドライビング)のケースと同様、これからもネット上に溢れるであろうサイバートラックに纏わる毀誉褒貶と喧騒を眺めることになりそうです。(了)
●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。