10月24日、GM傘下の自動運転タクシーのクルーズが、サンフランシスコ市内で起きた人身事故を受けて、安全性の問題と認可当局(DMV)[※1]に対する説明の不備を理由に、同市内での無人のロボタクシーの運行を禁止されました。これを受けて2日後にクルーズは、「安全性を検証するために」米国のすべての都市におけるロボタクシーの運行を中断(pause)しました。先月ホンダが、GMとクルーズの3社で共同開発した次世代自動運転サービス車両「オリジン」で、2026年初頭に東京でタクシーサービスを開始すると発表したばかりですが、その前途には暗雲が立ち込めている状況です。当局の怒りと米国内の批判的報道を受けて、11月8日にクルーズは、今回の事故の再発を防ぐためにソフトウェアの自主改修(リコール)を行うとNHTSA(米国道路交通安全局)に届けたと発表しました。ロボタクシー事業は技術的検証から社会実装の拡大にフェーズに入ったとして運行都市を急拡大してきたクルーズですが、今回の事故は同社の計画と自動運転に対する社会の信頼に少なからず影響を与えています。※1:カリフォルニア州車両管理局(Department of Motor Vehicles)(タイトル写真はクルーズ社メディアフォトより)

本件はGMとクルーズに深刻な影響を与えかねない

GMは、「万単位」の規模で量産に入る予定だったオリジンの生産を、先行生産の数百台が終了すればしばらく休止すると発表しました。11月8日のクルーズのリコールの発表とホームページでの声明などを見ると、GMがクルーズの当局やパブリックへのコミュニケーションに本格的に介入していると思わせます。

今回の事故の説明と対応を誤れば、2018年にアリゾナ州で起きたウーバーの自動運転車の死亡事故と、その結果、同社が自動運転事業から撤退することになったのと同様の顛末を招来するリスクもあります。そこまでには至らないにしても、現在の事業計画に大幅な変更を強いられる可能性があるというのが、自動運転業界ウオッチャーの見方であり危惧のようです。

画像: GMとクルーズが事業化の柱として開発したロボタクシー車両「オリジン」 車台をGMが、ボディーをホンダが、自動運転システムをクルーズが開発し来年にも全米で配車を開始する予定だった。

GMとクルーズが事業化の柱として開発したロボタクシー車両「オリジン」 車台をGMが、ボディーをホンダが、自動運転システムをクルーズが開発し来年にも全米で配車を開始する予定だった。

11月8日、クルーズがリコールと再発防止対策を発表

この記事を書いている最中に、クルーズがリコールの届出と再発防止対策をホームページに発表しました。それによると、まずNHTSAの定めるリコールの手続きにより、今回のような2次衝突事故の際に、路肩に寄せるより停車し続けるほうが望ましい場合は、そのような操作をするようにソフトウェアを改善するということです(対象は950台。車両はすべて同社の管轄下にあるので、あえてリコールの発表をせずとも回収・アップデートできるが、リコールの形式の下に瑕疵の改善を表明し、当局に恭順する体裁を取ったと思われる)。

さらに、「最高安全責任者のポストを設け、外部から採用する」「第三者の法律事務所を雇って、今回の事故に関する規制当局やメディアへの対応を検証する」また、「第三者の研究機関を雇って規制当局の協力のもとに今回の事故の根本原因の解明を図る」といった内容です。

画像: 11月8日の対策発表ページには、トップページからダイレクトリンクが貼られた。これがあるべき姿であろう。

11月8日の対策発表ページには、トップページからダイレクトリンクが貼られた。これがあるべき姿であろう。

これらは、これまでのやり方を根本的に見直すという表明に近く、さすがにクルーズとその親会社であるGMが危機を感じて対策を講じてきたと言えそうです。GMのように品質問題や経営破綻などで百戦錬磨の経験を持つレガシー企業のバックがあってこそ、遅ればせながらではありますが、今回のような対策が実行に移されようとしているようです。当局と全面的に協力することで、クルーズの再発進に向けて少し明かりが見えてきたかもしれません。(了)

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。

This article is a sponsored article by
''.