世界でクルマの電動化が進む中、販売台数を加速度的に伸ばし快走を続けるテスラ。前編の「次世代車両コンセプト」に続いて、今回は充電器と自動運転に関する状況について紹介します。(タイトル写真は「テスラ モデルY」)

テスラよりWaymoの方がずっと進んでいる!?

Waymoは、ドライバーレス車走行100万マイル達成からわずか3ヶ月後の今年5月には200万マイル走行を達成し、サービス区域をフェニックス市と隣接するチャンドラー市を跨ぐ地域全体に拡大しました。現在、これらロボタクシーは高速道路を走行しておらず、チャンドラーからフェニックス中心部に移動するには倍の時間がかかるなど課題はあるようです(同様のことが、サンフランシスコ市街とシリコンバレーのあるサンノゼ間−車で約1時間、にも当てはまる。)

かつてGoogleのロボットカープログラムに携わり、現在は自動運転に関して米Forbesに寄稿しているコンサルタントのBen Templeton氏は、「Waymoのロボタクシーは、毎週1万回のライドサービスを提供しながら人為的介入はほぼ皆無だ。テスラのFSDは到底このレベルに達していない」と述べています。この人はテスラオーナーでもあるようですが、テスラが自車の事故率の数字に信憑性を与え、FSDをきちんと評価してもらいたいなら、データの詳細をもっと明らかにすべきだと厳しい見方をしています。

画像: フェニックス市で親しまれている Waymo One のロボタクシーは「クライスラーパシフィカミニバン」を使用した(現在は退役)。まもなく3つ目の都市となるロサンゼルスでもサービスを始める。

フェニックス市で親しまれている Waymo One のロボタクシーは「クライスラーパシフィカミニバン」を使用した(現在は退役)。まもなく3つ目の都市となるロサンゼルスでもサービスを始める。

今年のスーパーボウルでは、「テスラのFSDは危険でNHTSAは禁止すべきだ」という独立系団体の意見広告CMが一部の都市に流れて反響を呼びました。マスク氏が株主総会で安全性を強調したのはそうした懐疑の払拭のためともいえ、質疑応答では、安全性を訴求する広告の提案を「やってみよう」と回答しました。

また、先週ドイツハンデルスブラット紙が報じた、テスラの内部告発者からリークされた100ギガバイトもの機密情報には、(元)従業員の個人情報などに加え、4000件に上る運転支援システムやオートパイロットに関する苦情が含まれているようです。

ちなみに、自動運転システムのハードウェアにおいても、テスラは2021年にレーダーの搭載をやめ、現在はカメラ8つでセンシングしています。WaymoやCruise、中国のWeRideなどのテック企業やメルセデスベンツやホンダなどの自動車メーカーのシステムが、カメラだけでなく複数の赤外線レーザー(LiDAR)やミリ波レーダーを実装しており、ハードウェアの点でもテスラはアプローチが異なります。

そもそも、テスラは自動運転に必須と言われる高精度の三次元マップを使用しません。WaymoやCruiseなどのロボタクシーや、メルセデスベンツやBMWなどの欧州メーカーの自動運転システムがLiDARスキャンによる詳細な道路環境の3Dマップをベースに、車載センサーデータをフュージョンして走行するのと大きく異なります。自動運転システムに「99.9999%以上」の精度を求める自動車メーカーは3Dマップがシステムの大前提ですが、テスラはFSDにおいて、人間の眼と脳による判断に代わるAIを開発しています。その意味ではより壮大なチャレンジとも言え、WaymoのロボタクシーとFSDを同じ土俵で比較することは適当ではないかもしれません。

画像: GMは2005〜2007年のDARPA(国防高等研究計画局)のロボットカーレースにも参加し、筆者も観戦した2007年の「アーバンチャレンジ」ではカーネギーメロン大学と組んで優勝している。2014年にスタートアップのCruiseに出資し、ライドシェアのリフト(Lift)も傘下に持つ。自動運転時代のキープレーヤーの一人だ。

GMは2005〜2007年のDARPA(国防高等研究計画局)のロボットカーレースにも参加し、筆者も観戦した2007年の「アーバンチャレンジ」ではカーネギーメロン大学と組んで優勝している。2014年にスタートアップのCruiseに出資し、ライドシェアのリフト(Lift)も傘下に持つ。自動運転時代のキープレーヤーの一人だ。

FSDの完成によって車の資産価値は飛躍的に高まる

マスクCEOは、現在週に10〜12時間程度しか稼働していない自家用車が、FSDにより稼働時間が5倍になるとすれば、車の資産価値は飛躍的に高まるとしています。車両の減価償却や保険、維持費が月に平均1000ドルとすると、カーシェアやライドシェアによって稼働率を何倍にもできれば、その使用コストを低減し、もしかしたら利益も生み出せるかもしれません。日本でも自家用車のシェアアプリのAnyca(エニカ)の会員数が70万人を超えるなど年々人気が高まっており、自動車販売ディーラーがAnycaで試乗車を活用する事例も増えてきています。

自動運転の開発競争の一時の加熱ぶりは収束しましたが、カリフォルニア州のAVTプログラムでも計47社が運行認可を受けており(ドライバーレス車認可は7社)、米国勢ではZoox(アマゾン)やApple、中国はApollo(百度)やPony.ai、欧州自動車関連ではメルセデスベンツやボッシュ、日本勢は日産やトヨタのWoven Planetが含まれます。

画像: 中国の武漢や北京で数百台のロボタクシーを運行している百度の Apollo Go。2030年までに100都市に広げる計画という。

中国の武漢や北京で数百台のロボタクシーを運行している百度の Apollo Go。2030年までに100都市に広げる計画という。

はたして自動運転で主導権を握るのは、Waymoや百度などのように自動運転システムを汎用のソフトウェアとしての提供を目指すテクノロジー企業なのか。自動車メーカーがテック企業と協力して自社専用のソフトとして組み込む形なのか。2030年に2000万台を販売してEV時代の圧倒的トップメーカーに立とうとするテスラなのか。もしくは、それぞれがモビリティの使用形態に合った形で共存するのか。ここでも開発競争の行方から目が離せません。(了)

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。

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