「混在交通」は、多摩大学でモビリティを研究する樋笠尭士(ひかさ たかし)准教授らが2024年に科学技術振興機構(JST)の助成を受けてスタートした研究プロジェクトで、日本発のコンセプトです。今回は、2026年9月17日に東京都多摩市の多摩大学で開かれた「混在交通の現在と将来」という日米合同シンポジウムの内容から報告します。(写真は、撮影に応じるシンポジウムの登壇者)
さまざまな混在交通に対応する手引き書を制作。教育も
2027年度まで4年間の「混在交通」プロジェクトでは、来年度中に日本全国の交通を十数種類のパターンに分けて、それぞれ優先されるべき交通手段はなにか、それを整備するための合意形成の手順書を作成する計画です。混在交通は「混雑した」都市部だけでなく、独自に「混ざった」交通を持つ地方でも存在します。例えば雪国では、除雪した雪がうず高く路肩に積まれて歩道や車道を狭め、そのスペースを自転車、歩行者、自動車がシェアするという事情があり、これも混在交通のひとつだといえます。
また、全国の教育委員会に「混在交通に関する授業」に関心があるかアンケートも実施中です。教育者が「ヒヤリ、ハット」した経験から、小・中学生を対象に道路交通について授業をやりたいけれども、「教材がない、事例がないという理由で『手を挙げて渡りなさい』くらいしか言えない」ため、しっかりした授業への関心は高いそうです。

「混在交通」研究のリーダーの樋笠准教授。霞ヶ関、地方自治体、民間企業、海外の研究者らと幅広いネットワークを活かし今回のシンポジウムを主催。
電動キックボードについても聞いてみた
自転車に比べて操縦が難しい電動キックボードについては、年配の人から「若い人の乗りもの」と敬遠され、危ないというイメージを持たれがちです。実際、免許も必要ない特定小型原付は、違反や事故が自転車に比べて10倍も多く、警察やレンタル事業者も対策に苦慮しています。この状況について樋笠氏に伺ったところ、「電動キックボードについては、ルールと技術が十分知られておらず、やや拙速だった感は否めない。例えば、歩道を走行するときは6km/h以下で緑のランプを点滅させる必要があるものの、そのことを利用者も守れておらず、歩行者も知らない。運用企業だけに教育を任せておいてはダメ」とのコメントでした。
自動運転バスも、バスや電車を普段利用する人は抵抗が少なく、自家用車に乗る人は理解と利用意欲が低いという調査結果があり、コミュニケーションや教育により社会受容性を高めることが必要とのことです。
未来の道路は、弱者が安心して通れるように
今回のシンポジウムでは、会場の参加者全員に「Future Inclusive Road 2035(未来の包括的な道路2035)」のイメージを書くというお題が出され、その結果がイラスト化されてパネルディスカッションで披露されたのですが、参加者の大半が求めたのが、歩行者や車椅子利用者など交通弱者に優しい道路でした。
「ゆっくり歩いて横断」「ベビーカーがよけなくて良い」「いろんな立場の専用レーン」といったコメントに現れたように、道路上の強者とみなされる自動車や電動キックボードよりも、車椅子やシニアカー、歩行者(子どもや老人)、ベビーカーなどが安心して通れる道を、という声が大半だったのです。欧州の都市では、街の中心部は自動車の進入を禁止したり、歩行者と自転車にそれぞれ専用レーンを設けた街が多くありますが、それに似た交通をイメージしていると感じました。
多摩大学の研究グループの田中友理氏は「便利さよりも、『安全』『安心』を求めている」と評し、UCバークレー校のペギー氏も、「カリフォルニアでも歩行者の(対クルマ)死亡事故が増えている。歩車のレーン分けや路車間通信によってAVのセンシングを補完するコネクティビティが必要」とコメントしました。

10年後の道路は果たしてここに思い描いたような形になるだろうか。

自転車や電動キックボードが道路の真ん中を走るドイツ・ミュンヘン市の中心部。
電動キックボードにしても、ロボタクシーにしても、日本では東京をスタートに便利な新モビリティとして飛びつく傾向があります。政府も2030年に「自動運転サービス車1万台」という目標を掲げてAV先進国たらんとしています。そこであと回しにされがちなのは、非利用者や交通弱者の目線でしょう。自転車違反の青切符検挙が始まりましたが、道幅が狭い日本では自転車による車道通行のインフラ整備が追いついておらず、危険なケースが少なくありません。子どもを乗せたママチャリが、道幅4.5m未満の道路を安全に走行するには、クルマが減速したり、追い越しを控えたりするなど「見守る」意識が必要です。
今回のパネルディスカッションのQ&Aでも出ていましたが、欧州のように都市計画を前提とした「誰を優先させるか」という合意に基づく交通や道路の設計が必要であり、「混在交通」の研究は、そのために貢献できると感じました。(了)
●著者プロフィール
丸田靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在を経て、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意-混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年ヴイツーソリューション)がある。




