※IAAはInternationale Automobil-Ausstellung(国際自動車ショー)の略。120年以上の歴史を持ち、長年フランクフルトで開催されていたが、2021年からミュンヘンに移りモビリティショーに意匠替えした。
BMWとメルセデス・ベンツは満を持して新型EVを発表
EV販売の不振や中国市場の苦境で大幅な減益や人員削減を余儀なくされているドイツ自動車メーカーですが、今回は、BMWが「ノイエ・クラッセ」と呼ぶ新世代EVの第1弾「iX3」を発表し、メルセデス・ベンツはライバルの「GLC」の新型EVをお披露目しました。両社にとって販売台数でも利益の上でも主力といえるSUVの発表だけあって、大変力が入っていました。
両モデルとも、新世代の車載バッテリーと800ボルト仕様のE/Eアーキテクチャを採用し、航続距離は最低でも600km前後、300kW以上の急速充電に対応してバッテリー残量10%→80%の充電は20分強とEVとしての性能を大幅に高めています。価格もiX3が6万8900ユーロからで、発売が2026年となるGLCは未発表ですが、やはり7万ユーロ前後からと予想されます。
デザインも、フロントフェイスを中心に一新されました。iX3はBMWのアイコンであるキドニーグリルを縦方向に凝縮した形状に変更。これは、1960年代にやはり「ノイエ・クラッセ」と称して登場したセダンのグリルを想起させるものです。一方のGLCは、メルセデス・ベンツ特有のクロームグリルをややユーモラスな丸型に変更し、その中心に大きな「スリーポインテッドスター」のシンボルを据えています。どちらもグリルは最新のLED技術で精密にイリュミネーションされ、夜間は独特の存在感を放ちます。なお、メルセデス・ベンツは、EQCやEQSといったEV専用のモデル名をやめて、「GLC with EQテクノロジー」といった名称を使います。

(撮影 筆者)

(写真:メルセデス・ベンツAG)

(両社の発表資料、及び一部ドイツHandelsblatt紙を参照して作成)
ディスプレイやAI搭載のインテリアに新提案
BMW、メルセデス・ベンツともに大きな変化はインテリアにあります。BMWは、「パノラミックビジョン」と称してフロントガラス下部にAピラー間一杯に広がるディスプレイを設け、ここに車両情報やナビ画面などさまざまな情報を投影します。さらにドライバー側では、その上のヘッドアップディスプレイ(HUD)に進行方向を示す矢印が大きく表示されます。

BMWブースのパノラミックビジョンの巨大なデモ装置。中央にウルトラマンのお面のようなアバターが見える(撮影 筆者)
GLCは、現在Sクラスなど上位モデルで採用しているダッシュボード前面の大型ディスプレイをさらに洗練させた長さ99.3センチの「ハイパースクリーン」を搭載します。これは、画面が精密で美しいだけでなく、新開発の「MB.OS」を搭載し、マイクロソフト(Chat GPT)とグーグル(Gemini)のAIを組み込んでおり、音声でやり取りが可能な会話型AIアシスタントを備えます(「little Benz」を含む3種類のアバターを用意)。ナビゲーションの目的地の設定からレストランの検索、天気情報や政治の話題まで音声でスムースにやり取りできるとメルセデス・ベンツの開発者は自信を示していました。

新型GLCのハイパービジョン。音声対話は助手席側からも可能(撮影 筆者)
ADAS(先進運転支援システム)についても、メルセデス・ベンツは、アウトバーン9号線で95km/hまで同一車線内での「レベル3」の自動運転(ハンズオフ、アイズオフ)の試乗(SクラスとEQS)と、「レベル2++」と呼ばれる市街地でのNOA(ナビゲーション・オン・オートパイロット)の同乗試乗を新型CLAで実施していました。いずれも試乗できたのですが、「レベル3」の方は、雨などの天候が良くない状況ではなかなか自動運転モードに入らない設定で、実用的なメリットは限定的という印象でした。
一方、「レベル2++」(法的にはハンズオン)の方は、人間のドライバーと遜色のないスムーズな加速や車線変更を見せ、テスラのFSDに近い実力があるかもしれません。ただ、欧州では一般道での「レベル2++」は認可されておらず、法規制のない中国やアメリカから実装を進めていくようです。
他のドイツプレミアムブランド、アウディとポルシェについては、近々発売する新型モデルがないこともあってか、アウディは「コンセプトC」による新しいスポーツカーのコンセプトモデルと新デザイン言語の紹介のみで、ポルシェも911ターボSの新型のお披露目にとどまり、少しもの足りなさを感じました。

アウディはオープンスペースのブースに「コンセプトC」を展示(撮影 筆者)
