2025年9月8日から14日までの1週間、ドイツのミュンヘンで開催されたIAAモビリティ※は、37カ国から750以上の出展者が集い、前回を上回る50万人以上を集客して盛況のうちに閉幕しました。最大の特徴は、ミュンヘン市中心部の広場や歴史的建物の敷地を開放して展示ブースを設け、すべて無料で観覧できる「オープンスペース」を設置していたことです。一方、メッセ会場では「IAAサミット」と称して200回以上の講演やセミナーが開催され、B to Bのイベントとして109カ国から7万人近いビジネス客やメディアが来場しました。デジタル配信が当たり前になり、旧来のモーターショーが廃れた中で、自治体や市民の支持を得たドイツの新しい試みは、自動車産業をモビリティ社会に位置付ける試みとして、他国の参考となると思われます。(タイトル写真は、IAAモビリティ提供)
※IAAはInternationale Automobil-Ausstellung(国際自動車ショー)の略。120年以上の歴史を持ち、長年フランクフルトで開催されていたが、2021年からミュンヘンに移りモビリティショーに意匠替えした。

フォルクスワーゲンのスモールEVファミリーに大きな期待

これまでグループの稼ぎ頭だったアウディ、ポルシェが低迷する中で、フォルクスワーゲン(VW)、シュコダ(Skoda)、クプラ(Cupra)の各ブランドで発売される「エレクトリック・アーバンカー・ファミリー」が盛大に発表されました。ID.2 allとして2年前に披露されたモデルは、(まだカモフラージュ状態ながら)ID.Poloとして2026年(後半)に2万5000ユーロを切る価格で発売されるほか、クロスオーバータイプのID.CROSSコンセプトとID.Polo GTI、シュコダからはSUVのエピック(Epiq)、クプラからは2026年前半に先陣を切ってラヴァル(Raval)が導入されます。

最長で450kmの航続距離を持つこのスモールEVファミリーには、2025年末に稼働を開始するVWのドイツザルツギッターのバッテリー工場から初めてバッテリーが供給されます。バレンシアに建設中の2つ目のバッテリー工場も2026年中に生産を開始する予定で、自社製バッテリーと「MEB+」プラットフォームを共有するグループ5車種の展開による量産効果で、「価格が高い」と言われてきたEVを、庶民の手が届く価格で提供する予定です。

EVが売れないと言われるVWですが、最近累計350万台目のEVをラインオフしたところであり、今年の1〜7月の欧州のEV販売台数はテスラを抜き、モデル別販売でもトップ5のうち4台はVWグループのモデルです。すでにフランスからは、ルノー 4や同5、フィアット グランデパンダやシトロエン e-C3などのスモールEVが発売されていますが、今回のIAAモビリティでは、フォード プーマやオペル コルサのEV、ヒョンデ アイオニック3やKIA EV2などのスモールEVが続々と発表されており、欧州のスモール(Bセグメント)EVが今後活況を呈することが期待されています。

画像: KIAが発表したEV2。すでにEV3からEV9までラインアップする。

KIAが発表したEV2。すでにEV3からEV9までラインアップする。

VWが「フルハイブリッド」車を導入!の意味するところ

今回のIAAでも、ドイツメーカーは「未来はEV」の基本姿勢は崩していません。しかし、急速なEVシフトを市場が求めておらず、エンジン車を当分販売し続ける必要があることが明確となった今、エンジン車の電動化をさらに進めることで、CO2排出量の削減を図ろうとしています。その動きの最たるものが、IAA直前に発表された新型T-Rocに来年フルハイブリッド車を投入するとVWが表明したことです。

これまで、ゴルフやパサートなどの主力モデルに48ボルトで駆動するスターター・オルタネーター(BSA)を装備して、発進・加速のアシストや回生ブレーキを行うマイルドハイブリッド車「eTSI」をラインアップしてきました。その方針を転換して、新たにフルハイブリッドモデル(トヨタやホンダなどが得意とする2モーター式という報道もあり)を開発して、T-Rocを含む複数車種に導入するというのですから、これは欧州のCO2排出量規制の緩和や延期を想定した大きな戦略の変更といえます。欧州でもトヨタを始め、ルノーやヒョンデ、上海汽車傘下のMGなどのフルハイブリッドモデルがシェアを伸ばしており、VWとしてもこの決断を余儀なくされたと言えるでしょう。

画像: 新型T-Rocなどにフルハイブリッドが来年追加されると発表された(撮影 筆者)

新型T-Rocなどにフルハイブリッドが来年追加されると発表された(撮影 筆者)

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