※IAAはInternationale Automobil-Ausstellung(国際自動車ショー)の略。120年以上の歴史を持ち、長年フランクフルトで開催されていたが、2021年からミュンヘンに移りモビリティショーに意匠替えした。
フォルクスワーゲンのスモールEVファミリーに大きな期待
これまでグループの稼ぎ頭だったアウディ、ポルシェが低迷する中で、フォルクスワーゲン(VW)、シュコダ(Skoda)、クプラ(Cupra)の各ブランドで発売される「エレクトリック・アーバンカー・ファミリー」が盛大に発表されました。ID.2 allとして2年前に披露されたモデルは、(まだカモフラージュ状態ながら)ID.Poloとして2026年(後半)に2万5000ユーロを切る価格で発売されるほか、クロスオーバータイプのID.CROSSコンセプトとID.Polo GTI、シュコダからはSUVのエピック(Epiq)、クプラからは2026年前半に先陣を切ってラヴァル(Raval)が導入されます。
最長で450kmの航続距離を持つこのスモールEVファミリーには、2025年末に稼働を開始するVWのドイツザルツギッターのバッテリー工場から初めてバッテリーが供給されます。バレンシアに建設中の2つ目のバッテリー工場も2026年中に生産を開始する予定で、自社製バッテリーと「MEB+」プラットフォームを共有するグループ5車種の展開による量産効果で、「価格が高い」と言われてきたEVを、庶民の手が届く価格で提供する予定です。

VWのID.CROSSコンセプトは安定感あるプロポーションと自信に溢れた表情をもつ(撮影 筆者)

アーバンEVファミリーを紹介するVWのオリバー・ブルーメCEO(写真はフォルクスワーゲンAG)
EVが売れないと言われるVWですが、最近累計350万台目のEVをラインオフしたところであり、今年の1〜7月の欧州のEV販売台数はテスラを抜き、モデル別販売でもトップ5のうち4台はVWグループのモデルです。すでにフランスからは、ルノー 4や同5、フィアット グランデパンダやシトロエン e-C3などのスモールEVが発売されていますが、今回のIAAモビリティでは、フォード プーマやオペル コルサのEV、ヒョンデ アイオニック3やKIA EV2などのスモールEVが続々と発表されており、欧州のスモール(Bセグメント)EVが今後活況を呈することが期待されています。

KIAが発表したEV2。すでにEV3からEV9までラインアップする。
VWが「フルハイブリッド」車を導入!の意味するところ
今回のIAAでも、ドイツメーカーは「未来はEV」の基本姿勢は崩していません。しかし、急速なEVシフトを市場が求めておらず、エンジン車を当分販売し続ける必要があることが明確となった今、エンジン車の電動化をさらに進めることで、CO2排出量の削減を図ろうとしています。その動きの最たるものが、IAA直前に発表された新型T-Rocに来年フルハイブリッド車を投入するとVWが表明したことです。
これまで、ゴルフやパサートなどの主力モデルに48ボルトで駆動するスターター・オルタネーター(BSA)を装備して、発進・加速のアシストや回生ブレーキを行うマイルドハイブリッド車「eTSI」をラインアップしてきました。その方針を転換して、新たにフルハイブリッドモデル(トヨタやホンダなどが得意とする2モーター式という報道もあり)を開発して、T-Rocを含む複数車種に導入するというのですから、これは欧州のCO2排出量規制の緩和や延期を想定した大きな戦略の変更といえます。欧州でもトヨタを始め、ルノーやヒョンデ、上海汽車傘下のMGなどのフルハイブリッドモデルがシェアを伸ばしており、VWとしてもこの決断を余儀なくされたと言えるでしょう。

新型T-Rocなどにフルハイブリッドが来年追加されると発表された(撮影 筆者)
