2025年1月8日(日本時間)、米ラスベガスで開幕したCESは、予想通りAI一色の様相を呈していました。スマートホームやSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)など、メガOEMやティア1サプライヤーの展示内容そのものは前年と大きくは変わらなかった印象ですが、2024年より一層AIにフォーカスした印象です。自動車においては、大規模言語モデル(LLM)と生成AIによるIVI(イン・ヴィークル・インフォテイメント)と自動運転(AV=Autonomous Vehicle)への流れが加速し、これから実装されていく技術がより明確になってきました。NVIDIAのジェンスン・フアンCEOの基調講演では、AVとヒューマノイドが当たり前になる未来が提示され、自動運転車の実現性への期待が高まりました。フアン氏の講演とADASの老舗であるモービルアイやロボタクシーのトップランナー ウェイモの展示などから、AVの現在地について読み解いてみます。(前編・後編にわけて掲載します。本記事は後編)
安全性の定義によって異なって見えるAVの未来
CES 2025の基調講演を見て、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOの存在感は、自動車業界においても今やテスラのイーロン・マスク氏を凌駕するという思いを強くしましたが、同社は基本的にSoCメーカーであり、その上でIVI(イン・ヴィークル・インフォテインメント)やADAS(先進運転支援システム)などのソフトウェアスタックを開発する環境を提供し、OEMを支援する立場です。
その点モービルアイは、10数年間に1億9000万個のADASチップを出荷してきた実績があります。マスク氏やフアン氏が、AIによる完全自動運転が「ChatGPTのように、もうそこまで来ている(just around the corner)」と楽観的な未来を語るに対して、エンジニアでありMIT(マサチューセッツ工科大学)の人工知能研究所で博士号を持つシャシュア氏の話は、より慎重で安全性への誠実さを示していると筆者は感じました。
7年ほど前に、アウトバーン9号線を130km/hまで自動運転するアウディA7ベースのレベル3試作車「ジャック」に試乗した際、開発責任者が「99.9999%安全でないと実装できない」と語っていたのを思い起こすと、果たして自動車メーカーがAV開発の究極の請負人を自負するNVIDIA詣でを続けるのかどうか興味あるところです。
フォルクスワーゲングループと組むモービルアイに優位性があるとすれば、それは顧客が受け入れられるコストに応じて、様々なレベルのADASを提供しつつ、完全自動運転のAVに対して非常に高い安全性の基準を設定してそれに着実に近づこうとしていることでしょう。
