先月の北京モーターショーで姿を見かけなかった欧州ブランドに仏プジョーとシトロエンがあります。2015年には両ブランド合わせて中国で年70万台を販売していましたが、昨年は8万台まで落ち込み、ステランティス社は1992年以来の東風汽車との合弁会社である神龍汽車の資産を東風に売却しました。また、チェロキーやコンパスなどを生産し人気を誇ったジープブランドも販売低迷で広州汽車との合弁会社を2022年に清算し、現地生産から撤退しています。中国撤退のシナリオも濃厚かと思われた中、ステランティスは新興NEV(新エネルギー車)メーカーであるリープモーター(零跑汽車)との提携に踏み切りました。果たしてどういう戦略を描いているのでしょうか。(タイトル写真はリープモーターの世界戦略車「C10」)

中国勢にも自国市場をパスする動きも

中国市場の熾烈な競争に耐えられる自動車メーカーは限られています。その証拠に、同国の新興NEVメーカーの中には、中国での販売は止めて海外市場に主眼を置くところも出てきています。2017年に江西省に設立されたAiways(愛馳汽車)がその一つです。同社は、テンセントや車載バッテリー最大手のCATL、ライドシェアのDiDiなどの出資を受けて、これまでにU5とU6という2つのミッドレンジのEVを発売しており、実は欧州に最初に上陸した中国車ブランドです。資金難でこの一年は生産を停止していましたが、今年中にニューヨーク証券取引所に上場する計画で、本部をドイツに移し、当面欧州市場に注力する方針です。

画像: U6のスタイリングはフェラーリ・エンツオのデザイナーとして知られるケン・オクヤマ氏の手による。U6は英国の自動車誌AUTOCARでMGやBYDと同等の評価を得ている。(写真:同社ホームページ)

U6のスタイリングはフェラーリ・エンツオのデザイナーとして知られるケン・オクヤマ氏の手による。U6は英国の自動車誌AUTOCARでMGやBYDと同等の評価を得ている。(写真:同社ホームページ)

不動産不況に起因する経済の停滞や地政学的なリスクから中国への投資を控えたり、サプライチェーンの見直しをする企業が増えています。自動車においても、eアクセル大手のNidec が中国向けの生産を絞ると表明するなど、熾烈な競争と薄利のビジネスに耐えかねて戦略の見直しをする企業が今後さらに増えていくでしょう。

世界販売における中国の比率が35〜40%に達するドイツの自動車メーカーは、これ以上の凋落を防ぐために一層中国にコミットするのは無理もないとしても、長年不動のNo.1だったVWでさえトップ3メーカーに残るのが目標と公言する中、GMやフォード、そして日本の自動車メーカー各社が、今後シェアを維持するのは容易ではありません。中国市場の「血の池」の販売競争からは距離を置き、力のある中国メーカーとの提携で欧州のみならずインドや南米、中近東・アフリカなどの将来の市場に備えるステランティスの戦略は、中国対応に苦慮する日本メーカーにも示唆を与えているかもしれません。(了)

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。

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