欧州自動車工業会(ACEA)が12月20日に発表した欧州の11月の乗用車販売台数(※1)は、前年同期比+6.0%と10月の+14%から伸びが鈍りました。コロナ禍や半導体不足で供給が制限された間のバックオーダーもあって今年1〜11月累計では+15.6%と大きな伸びを見せていますが、金利やエネルギーコストの上昇などで欧州域内の経済は減速しており、来年は2〜3%の低成長と調査機関は予想しています。加えてドイツでは、EV購入補助金が12月18日で突然終了するなど、牽引役と思われていたEVの成長スピードにも翳りが見えます。欧州の自動車関連の産業政策の状況を振り返りながら、来年の市場動向を見てみます。※1:EU+EFTA+UKの合計(タイトル写真は11月までの車名別販売台数第3位のVW T-Rocと同カブリオレ)

政策的リスクは米国の方が高い?

米国では、EVの販売ペースの減速に伴いGM やフォードがEVやバッテリーへの投資の一部を先送りし、今年発表されたEPAのCO2削減案(2032年にEV販売比率62%想定)やCAFE燃費基準の引き上げ案(※4)には自動車メーカーがこぞって反対しています。さらに、来年1月からバッテリーコンポーネンツに「懸念のある外国企業(Foreign Entity of Concern)」からの部品が含まれている場合、EV購入補助金の対象外になり、このためテスラ モデル3やフォード マスタングマッハEなどは補助金から外れるなど、政策と自動車産業界の思惑の調整はまだこれからです。※4:CAFE(企業平均燃費)を2027〜2031年の期間、乗用車で2%、ライトトラックで4%毎年引き上げて2032年の平均燃費を58mpg(24.5km/L)とする案。

また、来年の大統領選挙でバイデン政権の急進的な脱カーボン政策やEV化が焦点に上ることは間違いなく、万一トランプ前大統領の再選にでもなれば、グリーン化政策自体が大きく後退するリスクも孕んでいます。その点では、2035年にゼロエミッション車に切り替えるという大方針に向かって政治と産業界が一応足なみを揃えているEUの方が、企業の戦略上のリスクは低いと言えるでしょう。

2024年の自動車市場は2〜3%の低成長にとどまる

スタンダーズ&プアーズ グローバルモビリティは、今年の欧州の自動車市場は12.7%増の1470万台付近で着地するとし、2024年は「景気後退リスク、ローン条件の逼迫、抑圧されていた需要の緩和、依然として高い自動車価格、EV補助金の漸減を反映して前年比2.9%増の1510万台」との予測を14日に発表しています(米国市場についても今年が1550万台、来年は1590万台と2%程度の増加にとどまると予想)。

ACEAのルカ・デメオ会長は、2024年に欧州のEVシェアは、ルノーやステランティスの低価格EVモデルの発売などが寄与して20%に達すると述べていますが、自動車メーカー各社は、EVだけでなくハイブリッドやPHEVの品揃えや、内燃機関モデルの延命なども含めて今後も戦略の修正が必要になってくるかもしれません。(了)

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。

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