EV、SDV(※3)への転換に苦闘する自動車メーカー
中国市場でのシェア急落やEV販売の伸び悩みで、7月にトーマス・シェーファーCEOが「屋根が燃えている」と緊急事態宣言をしたフォルクスワーゲン(乗用車)ブランドですが、早期退職プログラムや新規雇用凍結などで20%の人件費削減、新車開発期間を50カ月から36カ月に短縮しテスト車両を50%削減するなどで3年間で100億ユーロのコスト削減するプログラムにこのほど労使が合意しました。2024年度だけで40億ユーロのコストダウン効果をあげ、売上高税引前利益率6.5%を達成する計画です。※3:ソフトウェア・ディファインド・ビークル
一方、ポルシェと共同開発したPPEプラットフォームによるQ6e-tronやA6 e-tronの発売が2年近く遅れて2024年後半にようやく発売されるアウディは、9月に就任したばかりのゲルノート・デルナーCEOが独ハンデルスブラット紙とのインタビューで、「2020年台半ばとしていたエンジンモデルとEVのコストが同等になる時期は従来の予定より遅れる」と発言しています。これはバッテリーや材料コストが高止まりしていることが影響しているようです。
一部で中止の憶測も出ていた2026年からの「フォーミュラ1」参戦計画には変更ないと明言し、現在9〜11%のレンジにある売上高利益率を13%に高める目標も示しました。2026年以降の新型車はEVのみという計画に変更はないようですが、それまでに導入するエンジン車やPHEVの最新モデルで、EV化のスピードの異なる欧州、中国、北米の各市場に柔軟に対応できると強調しています。今年180万台以上の世界販売を見込むアウディは、9月までに130万台を販売したテスラに追い上げられつつあり、EV時代にもシェアを維持するために中国では上海汽車のEVプラットフォームをベースにしたEVの開発にも乗り出しています。
今期1〜9月の売上高が前年同期比+21%増の373億ユーロとコロナ禍の落ち込みから回復してきたルノーは、10月にEV事業を切り離して「アンペア」社を設立してEV時代への転換に自信を見せています。また、XC40 rechargeや新型コンパクトEV「EX30」の受注好調の吉利汽車傘下のボルボは、今年はコロナ前の2019年の世界販売(71万5000台)を上回る新記録を打ち立てそうな勢いです。
このように、コロナ禍や半導体不足から脱した自動車メーカー各社は、EVや車両ソフトウェアの開発費用を捻出するために、大幅なコスト削減と収益力の向上を迫られており、電動化とSDVへのトランスフォーメーションの苦しみの中で懸命に舵取りをしている状況です。