歴史は語る – ピープルズカーの米国生産は容易ではない
それでは米国におけるアフォーダブル(廉価)なEVを送り出すこのプロジェクトは首尾よく成功するでしょうか。今回は実車のお披露目がなかったためか、2027年発売というスケジュールが遅いと思われたのか、発表後の株価はほとんど反応を見せませんでした。
ファーリーCEO自身も、「安価な米国車を作るという善意の試みのほとんどが、失敗と幾多の墓標を立てるに終わった」と歴史を振り返り、「『モデルTモーメント』も必ず成功するとは言い切れず、リスクを伴う」とあえて述べました。米国メディアも、「F150ライトニングも最初は4万ドルで発売するとの触れ込みだったが、コロナ禍を経て発売されたら6万ドルだった」と価格の実現性には疑問符も呈しています。
また、フォードは真っ先にEVシフトに舵を切った結果、テネシーの「ブルーオーバルシティ」に56億ドル※、韓国のSKイノベーションとバッテリー生産合弁であるケンタッキー州の「ブルーオーバルSKバッテリーパーク」に58億ドル※、中国のCATLのLFPバッテリーの技術を導入するミシガン州のバッテリーパークにも、規模を縮小したとはいえ30億ドルの投資を計画しています。これらの負担で、フォードのEV事業である「フォードモデルe」は、2024年だけで50億ドルの損失を出し、エンジン車の「フォードブルー」と商用バンの「フォードプロ」事業の利益を食い潰しています。
※投資額は発表当時のものです。

テネシー州メンフィス市北東のスタントンに建設中の「ブルーオーバルシティ」。(写真は建屋が完成した車体工場。写真は2024年5月撮影)
第2次トランプ政権下では、7500ドルのEV購入補助金が今年9月で廃止され、CAFE(企業平均燃費)未達成のペナルティや、カリフォルニア州のゼロエミッション規制も無効にする法案が可決されるなど、一連のアンチEVシフト政策の影響で、2030年の米国EV販売シェア予測は48%→27%へと大幅な見直しがされています(ブルームバーグNEFの最新レポートによる)。フォードにとって、今後も「モデルe」の投資負担が重く、EV事業の黒字化にはかなりの年数を要すると予想されます。
