オペレーターの作業性を最優先した製造工程
フォードは、車体を前部、中央部、後部の3つのモジュールに分けて同時に組み立て、最後にこれを合流させて完成させる工程を「アセンブリーツリー」と呼んでいます。部品点数を2割削減できるという設計は、電子電装系に4つのゾーンアーキテクチャを採用し、ワイヤーハーネスは1.2km短縮(10kgの重量低減)、ポップクランチやファスナーなどの組み付けが煩雑な部品も半分以下に減らせるといいます。
テスラも「アンボックスド」製法によって、工場フロアスペースを5割、コストを4割削減し、作業性においても、最初にドアを取り外してキャビン内にシートやインパネなどを持ち込んで組み付ける作業はなくなると示しましたが、フォードはさらに踏み込んで、「フロントフェンダー越しに60cm以上手を伸ばす作業は84%減」、「キャビン内に入る作業は63%減」、「頭上高く手を伸ばす作業は6割減」といった具合に、オペレーターの安全性や疲労に影響する「捩る、振り向く、屈む」作業の削減に注力しています。
今回の発表会には、ケンタッキー州の(民主党系)知事やUAW(全米自動車労働組合)のフォード支部代表、ルイビル工場の組合長、現場のオペレーター代表などが参加しましたが、自動車産業の地元の雇用への貢献や、現場の作業者とともに新世代のモデルを作っていくという気概が強く感じられました。
フォードは、米国ビッグ3の中でも米国生産比率が80%ともっとも高く、トランプ政権の「米国製造業の復活」を目指す政策の優等生と言えます。2023年秋のUAWとの協約改定でももっとも組合側の主張に歩み寄り、GMやステランティスに先駆けて25%の賃金アップなどの条件で妥結しました。
新「モデルTモーメント」の晴れ舞台をあえて工場で設け、プレゼンテーションでは「アメリカズ マニュファクチャリング」の肩書きを持つ米国製造担当副社長(VP)が、オペレーターの作業性やSQCDP(安全、品質、コスト、納入、ピープル)の改善を熱く語り、続いて登壇したUAW幹部やオペレーター代表はいずれも黒人女性だったことも、自動車製造の現場において人種やジェンダーのダイバーシティが日常であり、自動車産業が米国 中西部の地域経済・社会の基盤であることを物語っています。

フォードの米国製造担当VPのブライス・カリー氏は、オペレーターの安全や負荷低減など、革新的な製造システムについて熱く語った。発表会の全編動画はこちら。
