2025年7月27日、スコットランド訪問中のトランプ大統領は、欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長と米国−EU間の相互関税および自動車関税が15%で合意したと発表しました。その数日前に合意した日・米の関税率がそのまま採用されて8月1日の交渉期限前に決着したことに大方の関係者は安堵しましたが、文書化された合意内容の発表はなく、不透明な部分が残るのは日・米のケースと同様です。夏休み前に不安定要因が取り去られたことは歓迎されるものの、細部が不透明な合意についてはまだ「?」が残されています。

日本で米国車が拡販する可能性はほぼ皆無!?

さらに、そもそも認証負担を軽減したからといって、米国車が日本で売れるかというとその可能性は非常に低いと言わざるを得ません。日本は欧州と同様に小型車が主流で、大型のピックアップやSUVがマーケットの大半を占める米国とは市場構造が異なっており、GMもフォードも今や小型車はほとんど生産していません。GMが米国で販売するコンパクトSUVのシボレー トラックスやビュイックのモデルは韓国製です。日本市場でもかつてGMが傘下の大宇自動車製のSUVを販売したことがありますが、短命に終わりました(それよりさらに昔の1990年代後半に、GMサターンやクライスラー ネオン、トヨタがシボレー キャバリエにテコ入れをしてトヨタバッヂを付けましたが売れませんでした)。

フォードは日本市場から2016年に撤退、GMはEVに舵を切ったキャデラックとシボレーのスーパースポーツ「コルベット」を年間1000台程度販売している状況です。唯一、ステランティス(旧クライスラー)のジープブランドは、特長あるデザインと輸入SUVとしては割安なこともあり、2021年には1万4000台を販売するブームとなり、昨年も9600台を販売しています。そもそも、米国自動車メーカーに日本で拡販する強い意欲がない限り、米国政府のいう「長年の規制」を除いても、販売増にはつながらないでしょう(年間5000台程度販売するテスラは、日本では上海工場製の車両を販売)。

画像: 日本市場で人気のある米国車「ジープ ラングラー」。2021年には約7000台を販売。

日本市場で人気のある米国車「ジープ ラングラー」。2021年には約7000台を販売。

疑問3、メキシコ・カナダからの自動車関税は下げられるのか?

日欧の自動車関税が15%に引き下げられたことを受けて、GM、フォード、ステランティスの「デトロイト3」で組織する米国自動車政策評議会(AAPC)は、「米国産部品をほとんど使わない日本の自動車の関税が、米国産部品を多く使うメキシコやカナダ製の自動車より低いのは、米国の産業や労働者にとって『悪い』取引だ」と不満を露わにしました。たしかに、デトロイト3が米国販売の20〜40%の自動車を輸入するメキシコ・カナダからの関税は25%に設定されたままで、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に準拠する製品のみ、非米国産コンテント(金額)に限って課税するという形が続いています。日本やドイツの自動車メーカーが両国で生産するクルマにはUSMCA対象外のモデルもあり、関税は大きな負担となっているほか、デトロイト3にとっても、今後生産を米国内に本格的に移管するかどうかの判断を迫られているといえます。

GMは、トランプ関税による減益が今年第2四半期だけで13億ドルにのぼり、通年では40〜50億ドルに達すると発表しています。デトロイト3はこの3カ月間、メキシコやカナダでの生産を一時停止したり、一部を米国に移管すると発表しましたが、まだ本格的な米国回帰を始めたとはいえません。トランプ大統領が、両国に対する自動車関税を今後も25%に据え置くのか、日本やEUからの輸入車の関税に揃えて下げていくのかが注目されます。(了)

●著者プロフィール
丸田靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在を経て、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年ヴイツーソリューション)がある。

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