2025年7月27日、スコットランド訪問中のトランプ大統領は、欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長と米国−EU間の相互関税および自動車関税が15%で合意したと発表しました。その数日前に合意した日・米の関税率がそのまま採用されて8月1日の交渉期限前に決着したことに大方の関係者は安堵しましたが、文書化された合意内容の発表はなく、不透明な部分が残るのは日・米のケースと同様です。夏休み前に不安定要因が取り去られたことは歓迎されるものの、細部が不透明な合意についてはまだ「?」が残されています。

タイトル写真:関税と投資に関して合意した、米トランプ大統領と欧州委員会のフォンデアライエン委員長(欧州委員会のプレスリリースより)

疑問1、VWトップは個別企業への関税値引き(discount)に期待?

米・欧の合意直前の25日に発表されたフォルクスワーゲン(VW)の2025年第2四半期の決算会見で、VWグループCEOのオリバー・ブルーメ氏は、自動車関税は15%で落ち着く可能性が高いと述べた上で、VWは往年のSUVブランド「スカウト」を含む8つのブランドを米国で展開しており、アウディの現地生産やソフトウエア開発のパートナーであるリヴィアンへの投資などの「魅力的なパッケージ」を携えて、関税の割引き(discount)を得る個別交渉に期待をかけていると発言しました。同CEOは、対米投資1ドルにつき同額の関税の免除を提案して、欧州委員会や米国当局と折衝してきたようです。

また、米国サウスカロライナ州に世界最大規模の生産拠点をもち、2024年に同工場から22万5000台(1000億ドル相当)を輸出したBMWも、米国からの輸出の貢献度に応じて関税を相殺する案を表明していました。ただし、日本経済新聞によれば、この関税相殺案は、米国への自動車輸出が僅少なフランスやイタリアから「ドイツの抜け駆け」と反発があり、ドイツ政府はEUレベルでの合意を優先して、直近ではこの個別取引案の主張を控えていたとのことです。中国市場の退潮が止まらないドイツ自動車産業にとって米国市場の重要性は増しており、トランプ政権との間で個別取引を結ぶことができるかどうかは、5月に就任したフリードリヒ・メルツ独首相の手腕にかかっているといえそうです。

VWの業績は落ち込むも、関税合意と固定費削減に株式市場は好感

そのVWグループの上半期決算は、営業利益が67億ユーロ(−33%)と大幅な減益でしたが、この決算発表直後に株価は99.5ユーロへ約6%急上昇しました。米国が4月から課した25%の自動車関税が13億ユーロの減益要因となりましたが、その関税引き下げに目処がついたことと、利益を大きく減らしたポルシェとアウディの業績は「今年が底になる」という点が好感を持って受け止められたようです。固定費削減では、アウディで7000人、ポルシェで1900人の人員削減に着手し、EVの伸び悩みに対応して内燃機関モデルを強化する製品戦略が実行されることが評価されたのでしょう。

さらに、昨年までグループの業績の足を引っ張っていたVW乗用車ブランドが売上高を3%伸ばし、利益が大きく落ち込んだアウディとポルシェを上回る11億ユーロの営業利益を上げ、営業利益率8.5%と好調なシュコダとともに業績の下支えをしたのも好材料です。

EVの販売においても、上半期で世界で46万5000台(前年比+47%)と躍進し、欧州市場においては、VWブランドのEV販売台数はテスラを上回りました。特に昨年の低迷からEV販売が回復してきたドイツや、今年28%のEV販売を義務付けられている英国、政府がEVシフトを積極的に進めるベルギー、オランダ、ノルウェーなどを中心にEV販売は伸びています。VWグループの全販売台数におけるEVのシェアは11%、西ヨーロッパ市場においては20%に達しています。また、PHEVもVWグループで19万2000台(+40%)と好調です。

画像: ID.シリーズやQ6 e-tronなどのEVの販売は好調(VW決算発表資料より)

ID.シリーズやQ6 e-tronなどのEVの販売は好調(VW決算発表資料より)

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