4月の上海訪問では、同市から170km北西の常州市にあるBYDの完成車工場と販売店を訪れる機会がありました。直近の5年間で販売台数を10倍に伸ばして427万台(2024年)とし、一気にホンダや日産を抜き去って世界第7位の自動車メーカーに躍り出たBYDは、近年の自動車産業史に例をみないスピードで成長を続けています。日本でも軽自動車市場に参入することを表明した同社ですが、ここでは現地の生産工場や販売店で目にした最新の状況を報告します。(タイトル写真:上海モーターショーで展示されたBYDの「漢(ハン)L 黒神話:悟空」。大人気のアクションゲームのタイトルにちなんだ特別モデルで、EV仕様は1000馬力、最高速は300km/h超え)

猛スピードの技術革新で成長を続けるBYD

BYDの今年1〜3月の販売台数は100万台(前年同期比+60%)とその成長は続いています。高性能なEVやADASを安く提供するだけでなく、先日は、ポルシェやスバルの専売特許である水平対向エンジンをEREV(レンジエクステンダーEV)用に開発したと発表しました。このエンジンは、仰望のハイパーセダン「U7」に搭載の予定で、全高の低い水平対向エンジンによってボンネット高を下げて空気抵抗係数をさらに低減する目的のようです。

BYDは2024年に40万台を輸出しましたが、長期的に国内と海外の販売比率を半々にすることを目標にしており、昨年はタイ工場が竣工。今年はブラジルとハンガリーの工場が完成予定です。トルコには欧州2つ目の工場を計画しています。

昨年5万台を販売した欧州では、今年1〜3月に2万7000台(前年同期約4倍)と大幅に伸ばしており、通年では10万台も視野に入りそうな勢いです。グローバルでは550万台を目標としていると報道されており、そうなるとフォード(447万台)やステランティス(542万台)を抜いて、GM(600万台)の背中も見えてきそうです。

画像: 昨年欧州で1万2000台を販売したBYD「シールU DM-i」はPHEVだ(写真は英国仕様)

昨年欧州で1万2000台を販売したBYD「シールU DM-i」はPHEVだ(写真は英国仕様)

軽自動車の開発で、日本市場への本気度が明確に

日本でも2026年後半に軽自動車EVを投入することを発表したBYDですが、すでにEVバスの「J7」は日本向けに全幅を2.3mに抑えて開発した実績があり、全幅1.48m以内と特殊な軽自動車セグメントに参入することで、同社が本気で年間420万台の日本市場を取りにきていることがわかります。

かつて1990年代後半に、米国ビッグ3が当時700万台を超える世界第2位の市場だった日本を、GM「サターン」やクライスラー「ネオン」などの右ハンドル車で攻略しようとしましたが、簡単でないとわかると数年であっさり撤退しました。BYDの2024年の日本の販売台数は2200台、今年も1〜4月で771台(前年同期比−7.6%)と決して順風満帆とはいえず、そろそろ音を上げるのではと思っていましたが、どうやら怯むどころか、軽参入発表で腰を据えて取り組むことが明らかになりました。

日本の自動車産業にとっては、前門のトランプ関税、後門の中国ビジネス崩壊という切迫した状況ですが、輸入車シェアが10%で国産メーカーは安泰と思われた日本でも、圧倒的なコストパフォーマンスをもつBYDが、「太平の眠りを覚ますエレキ船」になるかもしれないと、その変革のスピードと中国市場でのパワープレイを見るにつけ思われてくるのです。(了)

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在を経て、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年ヴイツーソリューション)がある。

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