2025年4月3日、トランプ大統領は予告どおり10%の一律関税と約60カ国に対する相互関税(reciprocal tariff)を発表しました。中国34%、日本24%、EU20%、ベトナム46%など予想を超える高い関税率に世界は驚き、株式市場は大暴落してまだ底が見えない状況です。しかしトランプ氏は、「時には苦い薬も必要だ」と怯む様子はありません。中国は即座に米国の全輸入製品に同率の34%の関税を課して徹底的に戦う構えですが、EUは「工業製品の相互ゼロ関税」を提案して拙速な報復には出ず、周囲からの圧力でトランプ氏が軟化するのを待つ戦略です。自動車メーカーも、ジャガーランドローバーやアウディが、米国への輸出を一時中断したほか、ボルボや日産は、米国に生産をシフトすると表明しました。また、フォードやステランティスは「米国産」を掲げ、値引きキャンペーンを開始しています。1971年のニクソン政権の「金本位体制離脱以来のショック」といわれる今回の関税への反応を見てみます。追記:トランプ大統領は、日本時間4月10日未明に(中国を除き)相互関税を90日間停止すると発表したが、自動車や鉄鋼、アルミへの25%関税は維持される。
(タイトル写真:2024年に米国で販売された10万台以上のランドローバー車は全量を輸入されている)

果たして関税はいつまで続く

トヨタのように体力のあるメーカーはサプライヤーの関税コストを吸収したり、小売価格の上昇を抑える対応ができますが、余力のない中規模メーカーは関税分の価格転化は避けられないでしょう。そうなる前に、政府間交渉で関税の減免を勝ち取ってほしいというのが、ドイツや韓国、日本メーカーの切迫した事情でしょう。石破首相が、交渉の材料が揃わなくてもトランプ大統領と電話会談し、双方の交渉担当を指名したというのはその緊急性を表しています。

4月7日には、「関税は90日で終了する」という報道がCNBCテレビで流れて米国企業の株価が一時大きく反転上昇し、それを政府筋が否定して再降下という乱高下を繰り返しました。関税はトランプ大統領にとって単なるブラフではなく、製造業の米国回帰を本気で目指すための手段であることは今や明らかですが、労務コストが米国の10分の1のメキシコや東南アジアに移った衣料や日用品、機械部品などの生産を、移民も制限したい米国に回帰させることは容易ではありません。

米国のインフレにつながる関税は遠からず、撤回を余儀なくされると想像されますが、トランプ政権が戦略物資と位置付ける自動車や半導体の分野で大幅な輸出超過となっているドイツ、日本、韓国、台湾などは、米国の貿易赤字分に見合った献上物を求められそうです。日本の場合は、防衛費の増額(含、在日米軍への思いやり予算)、非関税障壁(と米国が決めつける)規制撤廃、コメをはじめとする農産物のさらなる開放、天然ガスの購入などでしょうか。さらに、ドル安への為替誘導もアジェンダに上ると報道されています。

画像: トランプ大統領の側近、イーロン・マスク氏はイタリア極右政党の集会にオンライン出演し、「欧州と米国間の関税はゼロが望ましい」と発言したが、トランプ氏自身は「(関税は)ずっと続くかもしれないし、交渉で取引があるかもしれない」と述べている(ウォールストリートジャーナル掲載動画より)

トランプ大統領の側近、イーロン・マスク氏はイタリア極右政党の集会にオンライン出演し、「欧州と米国間の関税はゼロが望ましい」と発言したが、トランプ氏自身は「(関税は)ずっと続くかもしれないし、交渉で取引があるかもしれない」と述べている(ウォールストリートジャーナル掲載動画より)

NATOや日米安保条約を「ただ乗り」と言い、貿易赤字は米国からの「搾取」と決めつけるトランプ氏の経済観念は時代遅れで、物価高と不景気の「スタグフレーション」を招くとエコノミストや金融街は批判しています。トランプ政権は、景気後退に陥らないように関税の弁を微妙にコントロールしていくつもりでしょうが、果たしてそう上手くいくかどうか。それに付き合わされる世界も難しい舵取りを迫られています。(了)

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在を経て、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年ヴイツーソリューション)がある。

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