今後が注目されるイギリスのEV政策と波乱含みのEU
ところで、イギリスは今年度から新車販売のBEV比率22%を義務付けるゼロエミッション規制が始まります。しかし、1〜6月のBEVシェアは17%に届かず、ステランティスなどの自動車メーカーはこの緩和を求めてきました。スナク前政権は昨年秋に2030年に内燃機関車の販売を禁止するという規制を2035年まで延期しましたが、今月の総選挙で誕生した労働党のスターマー首相は環境政策に積極的であり、このゼロエミッション規制を緩める気配は今のところありません。
一方、6月のEU議会選挙では、環境政策に熱心な緑の党など左派が大きく議席を減らし、EVに懐疑的な右派が躍進しました。中道右派の議会政党EPP(欧州人民党)のフォン・デア・ライエン欧州委員会議長の再任が決まり、同氏は2035年の内燃機関車の販売禁止の姿勢は崩していませんが、一部の自動車メーカーや議会関係者からは、EVの需要減速に伴って見直しの声も出ているようです。
欧州市場はこの先数年間はHEVが最もシェアを伸ばすことが予想されますが、ルノーやステランティスなどの30,000ユーロ以下のEVが今年から投入され始め、BMWのノイエクラッセやメルセデスの次世代コンパクトBEVのCLAなどドイツメーカーの次世代EVも2年後には登場します。テスラの25,000ドルEVも来年初めには発表されると言われており、EVの価格や性能はエンジン車との差をさらに縮めてきそうです。
このように保守的な市場やユーザーはHEVやMHEV、より本格的な電動モデルを求める国や顧客はBEVやPHEVと、3つのタイプが相まって旧来のエンジン車を徐々に置き換えていくでしょう。トヨタを始めBMWやステランティスなどが主張してきたいわゆる「マルチパスウェイ」が現実的な路線として受容されながら、着実に市場の電動化が進んでいくと思われます。(了)
●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。