PHEVはEV走行レンジを増大させる傾向に
こうしたBEVのスローダウンを踏まえ、自動車メーカー各社はハイブリッド車のラインアップを強化しています。メルセデス、BMW、アウディなどは中・大型車はPHEVを漏れなくラインアップし、エンジン車も48Vのマイルドハイブリッド(MHEV)を標準装備していますが、最近はPHEVのバッテリー容量を20〜30kWhに増強してEV走行レンジを100キロ以上にするモデルを矢継ぎ早に投入しています。これは2025年からPHEVのUF(ユーティリティファクター)(※4)が厳しくなるCO2排出量規制に対応すると同時に、ドイツやイギリスではEV走行レンジが長いほどフリート(カンパニーカー)の税金が安くなる制度があるためです。※4:走行全体に対するモーター走行比率を定める係数
中国市場ではBYD が、15.8kWhのバッテリーでEV走行90km、46%を超える熱効率を達成した1.5Lエンジンと合わせて2,100km(NEDC)の総走行距離を可能にした秦L Plusを導入するなどPHEVの進化が著しく販売もBEVを上回る成長を遂げています。また理想汽車のように40kWhクラスのバッテリーで200km以上のEV走行を確保し、その先はエンジンをレンジエクステンダー(発電機)として用いるER(=Extended Range) EVと呼ばれるタイプも人気を集めています。
UFが厳しくなる欧州市場でPHEVは10%以上のシェアを持つことはないとアナリストは予想していますが、BEVの航続距離に不安を持つユーザーのプラグイン車の選択肢としてPHEVは一定の支持を集め続けると考えられます。
小型のエンジン車ではMHEV化が進む
フランス、イタリア、ポルトガルで販売台数首位のステランティスグループも、48VのMHEVをプジョー、シトロエン、フィアットなどの各ブランドに拡大しています。同社のようにコンパクトなモデルが中心のブランドは、バッテリー容量が少なめのBEVとMHEVを販売の中心に据えていく方針です。
ステランティスの48Vシステムは、0.9kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、6速デュアルクラッチ式トランスミッション(DCT)に出力21kW/55Nmのモーターを組み込んで「eDCT」と称しています。E V走行距離は1kmですが、市内走行モードでは5割近くモーター駆動となり100kmあたりの燃料消費を最大2L削減できるので、「頭に『マイルド』をつける必要のない『ハイブリッド』である」としています。
自動車メーカー各社のハイブリッド化は、中・大型車が中心のプレミアムブランドではEVレンジを拡大したPHEVがBEVを補完し、ベルト駆動のスターター/ジェネレーター(BSG)やeDCTのような変速機組込みタイプのMHEVは、よりシンプルな機構と低コストで燃費の向上を求めるユーザー向けという構図となっています。(追記:アウディは先週発表した新型A5/S5の変速機に18kW/230Nmのモーターを組み込んだ「48V MHEVプラス」を導入しており、プレミアム車でも強化したMHEVで発進や巡航時など電動ドライブ比率を高める方向が認められます)
市場別に言えば、充電インフラの整備やEV補助金、ゼロエミッション規制などで政府がEVを後押ししてきたドイツ、オランダ、ノルウェーなどの北欧諸国、イギリスなどはBEVやPHEVが中心になり、コンパクトなエンジン車が主流で充電環境も未発達なイタリアやスペイン、東欧諸国などはHEVの人気がさらに高まりそうです。フランスは小型車が多いですが、政府は早くから購入補助金(最大7,000ユーロ)やサプライチェーンの構築で強力にEVを支援しています。