2024年6月13日、テスラは米テキサス州オースティンの工場で株主総会を開催しました。開催前から話題をさらったのが、560億ドル(8兆7000億円)に上るイーロン・マスク氏への業績報酬です。「マスク氏のお友達で構成される報酬委員会が決めた理不尽な額であり無効」と一部株主が提訴した裁判では、今年1月にデラウエア州の判事が無効と判断した空前の額のパッケージですが、株主投票では72%の賛成で再度支持されました。投票結果の発表に小躍りしながらステージに登場したマスク氏は、自動運転や人型ヒューマノイドロボットのオプティマスの話に多くの時間を割き、EVビジネスに関するプレゼンテーションは駆け足という形でした。マスク氏は「テスラは車会社以上にソフトウェア会社だ」と語り、2029年までの5年間に時価総額は10倍になるとの投資ファンドの予測を受け合って、EV販売の減速下でイーロン信者の抱いた一抹の不安も吹き飛ばしたようです。(タイトル写真は株主総会で登壇したイーロン・マスクCEO。テスラ配信動画より)
投資家は「花より団子」がお好き?
今回の株主総会は、「持続可能なエネルギーへの転換」や「次期EVのアンボックスド(unboxed)製造システム」といった話が中心だった昨年の株主総会やインベスターデイからかなり方向が変わった印象で、普及価格帯EVや年間販売目標2000万台といったトピックについて株主からも突っ込んだ質疑はありませんでした。
生成AIブームなど時流に合わせてか、マスク氏の話はEVによる持続可能なモビリティの実現よりも今後莫大な利益を生むビジネスのネタが中心で、やっぱりお金?花より団子?と思わせました。テスラが利益を出して成長すれば地球環境も改善されて「Win-Win」だと投資家や世間が納得する経営が今後も続くのか、巨額の報酬を含め毀誉褒貶の多いマスク氏ですが、やはりテスラの一挙手一投足は今後も耳目を集め続けそうです。(了)
●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。