2万5000ドルEVの話はなかった
EV事業については、昨年EVトップメーカーとして180万台を販売して2000万トンのCO2削減に貢献したことや、サイバートラックが毎週1300台の生産ペースに達したこと、世界に5万8000機あるスーパーチャージャーネットワークも、投資効率を最適化しつつ年間5億ドル投資し、他ブランド車向け充電アダプターの普及も進めることなどが紹介されましたが、特に目新しい話はありませんでした。
その後の質疑応答では、かねてより2万5000ドルカーと言われている「アフォーダブル」EVについてはその重要性に触れ、「もしモデルYが2万ドル以下なら年間500万台売れるだろう。」「その価格の車を実現するには、今5ドルの部品を3ドルにコストダウンしなければならない。テスラは1円(ペニー)単位でコストを切り詰める作業の大変さを知っている」と語りましたが、具体的なモデルの構想には触れませんでした。
UberとAirbnbの組み合わせと言えるロボタクシー事業
ロボタクシーについては、前述のアークインベストメントは、今後おそらく2年以内にテスラはロボタクシーかその前段階のライドシェア事業を開始し、2029年にはテスラの売上に占める比率が60%強、収益においては約90%を占めるようになると予測しています。
しかし、昨年秋のサンフランシスコ市における自動運転タクシー「クルーズ」の人身事故で同社が6ヶ月以上運行を停止し、CEO更迭などの改革措置を迫られたことを引き合いに「心配はないか」と株主から質問が出ました。これに対しマスク氏は、FSD搭載のテスラの事故率は人間のドライバーより遥かに低い(10分の1)というデータに言及しましたが、人間ドライバーより安全というのはクルーズやウェイモもずっと主張していることです。クルーズのような人身事故が一件でも起こったら、当局から運行中止させられるリスクがあり、社会実装上の課題の検討はまだこれからと思われます。
また、テスラのFSD車両を使ってUberのようなライドシェアサービスを始めたとしても、当面はドライバー乗車による監視を伴った運行となるでしょうから、運用コストが安いとかドライバーの負担が少なく稼働時間が長く取れるなどのメリットがなければ、テスラが一挙にシェアを伸ばすのは難しいでしょう。冒頭でマスク氏が、UberとAirbnbの組み合わせと言ったのは、テスラがフリートとして所有して運用する形態と、個人が自家用車の空き時間で一日数時間から週に数日貸し出してクルマに稼いでもらう形の両方を想定しているからです。後者は日本でもエニカ(Anyca)のようなC to Cのカーシェアプラットフォームがありますが、それに近いイメージでしょうか。
テスラがEVを売って収益を上げる会社から、EVを運用するソフトウェアやライドサービスの提供者に変身しようとしていることが今回の株主総会から見て取れました。将来の最大の収益事業とされるロボタクシーの8月の発表で、これらの目論見がさらに説得力のあるものとして提示されるかどうかに関心が集まります。テスラ株の飛躍的な上昇で美味しい思いをした株主たちは、「夢よもう一度」という期待を込めてマスク氏に声援を送っているのでしょう。