4月25日にメディア向けに開幕した北京モーターショーは、前回の2022年がコロナで中止になっているので4年ぶりとなります。主催者によれば、総出店社数は1500社、ワールドプレミア117台(うち海外メーカーのもの30台)、EVやPHEV(プラグインハイブリッド車)など新エネルギー車(NEV)だけで278台が展示面積22万平方メートルを埋め尽くす巨大なモーターショーで、筆者が北京を訪れたのは実に10年ぶりとなります。中国産ブランドの市場シェアが5割を超え、かつて圧倒的な存在感を示したドイツのフォルクスワーゲンやGMなどの欧米のブランドや日本の自動車メーカーが急速にシェアを落としているニュースに接し、その変容ぶりは覚悟していましたが、インパクトは想像を超えるものです。初めて見聞きするブランドが幾つもある中で、たった1日で全容を把握することは筆者の能力に余りますが、駆け足で捉えた断片をお知らせし、会場の興奮の一端でもお伝えできればと思います。(タイトル写真はBYDのプレスカンファレンスの模様。手前の車は今回発表されたシール[海豹]のPHEV)

日本車勢も反攻の狼煙を上げるも存在感は今ひとつ?

8つのホールでプレス会見が20分刻みで同時進行するため、日本メーカーの会見はほとんど見られなかったのですが、トヨタはBYDとの合弁会社で開発したbZ3CやbZ3Xをお披露目したほか、中国IT大手のテンセントとAIやビッグデータ分野での提携を発表しました。ホンダは、昨年発表したe:Nシリーズに加え、烨P7・烨S7の烨(※1)シリーズを新たに発表、2027年までに6車種を発売する予定です。日産とマツダは、日本本社から内田社長、毛籠社長が登壇し、中国市場での販売台数の減少に歯止めをかけて反転攻勢に出るべく、日産は4車種のNEVコンセプトカーを、マツダは提携先の長安汽車とともにミッドサイズセダンのEVとプラグインモデルのEZ-6などを発表しました。※1:「明るく光り輝く」の意。

画像: マツダEZ-6を発表する毛籠勝弘社長。今年末に発売予定。

マツダEZ-6を発表する毛籠勝弘社長。今年末に発売予定。

中国の政府系自動車メーカーの上海汽車、第一汽車、広州汽車、東風汽車、北京汽車、長城汽車なども人気のSUVタイプやミニバンなどの品揃えを披露し、吉利汽車は、Zeeker、Lynk & Co、Polester、Lotusなどを、上海汽車はMG、MAXUS、IM(智己)などの傘下のブランドに力を入れています。さらに独立系は、EV新興御三家のLi Auto(理想汽車)、NIO(尉来)、シャオペン(小鵬)などが徐々に生産台数を伸ばしており、ファーウェイ(華為)、シャオミ(小米)などの通信や携帯会社も参入。これに欧州のメルセデス、BMW、アウディ、VW、ジャガーランドローバー、ボルボ、ベントレーなどの欧州勢、ビュイック、キャデラック、シボレー、フォード、リンカーンなどのアメリカ勢、そして韓国や日本の自動車メーカーが渾然一体となって2500万台(輸出500万台を除く)の市場に溢れかえっている印象です。

画像: 吉利汽車とボルボの合弁であるLink&Coは『Think outside of the Car』を標榜し、カラフルなEVのラインアップやライフスタイルを提供するMINIに似たコンセプト。

吉利汽車とボルボの合弁であるLink&Coは『Think outside of the Car』を標榜し、カラフルなEVのラインアップやライフスタイルを提供するMINIに似たコンセプト。

画像: 重慶に本社を置く長安汽車傘下のアバター(阿维塔-AVATR)も今回初めて見たブランド。設立にはNIOのW.リー会長が関わり、今はファーウェイとの提携を進める。

重慶に本社を置く長安汽車傘下のアバター(阿维塔-AVATR)も今回初めて見たブランド。設立にはNIOのW.リー会長が関わり、今はファーウェイとの提携を進める。

画像: 毛沢東によって1950年代に設立された中国の政府公用車の紅旗。第一汽車が生産し、かつてはリンカーンやトヨタと提携、現在は元ロールス・ロイスのエンジニアが開発を担当。

毛沢東によって1950年代に設立された中国の政府公用車の紅旗。第一汽車が生産し、かつてはリンカーンやトヨタと提携、現在は元ロールス・ロイスのエンジニアが開発を担当。

今回のプレスデーも、スマホで会場からライブ配信するインフルエンサーが溢れかえっていて写真も撮りにくい状況ですが、中国の消費者はWeChatなどのSNSで流れてくる膨大な情報を咀嚼して、クルマの購入でもコストパフォーマンスを意識した賢い選択をするようです。これほど多くのブランドが割拠する状況は、ちょうど自動車が誕生した20世紀初頭の黎明期に似ているのでしょうか。全てのブランドが生き残るとは到底考えられないと現地のメディア関係者も言っていますが、いずれにしても、「普段の足は、燃料代もメンテナンス代も安いEVで十分」という関係者の話にあるように、新エネルギー車への転換は世界最速で進んでいくことは間違いなさそうです。(了)

画像: GWM(長城汽車)の大きなブース。会場はスマートフォンや小型ビデオカメラを持つ個人メディアで溢れる。

GWM(長城汽車)の大きなブース。会場はスマートフォンや小型ビデオカメラを持つ個人メディアで溢れる。

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。

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