アップルがついに自動車の開発を断念
正式発表はありませんが、社内で2月27日に伝達されたこのニュースも瞬く間に世界を駆け巡りました。2014年に自動運転EVを開発すべく立ち上げられた「プロジェクト タイタン」は、10年の間にテスラの元幹部やアップルウオッチの開発統括者など4人の責任者が入れ替わり、開発目標もテスラを超えるEVといった初期の設定から、完全自動運転のソフトウェアに変更になったりと紆余曲折し、100億ドルの資金を注ぎ込んだ挙句、2000人のチームは解散になったようです。
数年前には、同社がiPhoneの生産を委託しているフォックスコン(鴻海)のような提携先として日本の自動車メーカーを打診しているという噂が流れ、開発が進んでいると思われた時期もありました。また、2023年のカリフォルニア州認可の自動運転車の公道走行記録ではアップルから約70台が登録され、72万kmを走行してウエイモ、クルーズ、アマゾン傘下のズークス(Zoox)に次ぐ実績でした。しかし、ウォールストリートジャーナルの記事で元フォード社長のマーク・フィールズ氏がコメントしているように、「容認できる利益率を確保できず、それを販売台数で埋め合わせることも無理という結論に達した」模様で、ついに自動車の開発に終止符を打ちました。
一般的に、自動車は単発の車種で数10万台のヒットが出るだけでは不十分で、数百万台規模にスケール(拡大)しなければ兆円単位の利益はあげられないビジネスであり、アップルはそこまで踏み込めなかったという事でしょう。また、最近のAIブームでオープンAIを傘下に持つマイクロソフトに時価総額で抜かれており、リソースをAI開発に集中する必要もあったようです。
アップルは、「公然の秘密」だった本件には一切ノーコメントですが、10年を費やしたプロジェクトを葬ったもう一つの理由は、納得できるアップルカーのビジョンが結局見えて来なかったからではないでしょうか。ソニー・ホンダモビリティはさらに後発ですが、その開発の進捗を公に示す中で、「イマーシブな運転体験を提供する」というビジョンが明らかになってきました。自動運転やEVにおいて、世界の自動車メーカーの大手や、テスラを筆頭に多くの新興企業が凌ぎを削る中で、テスラもどきの車や、クルーズのような無人自動運転シャトルを作っても新鮮味はありません。車のスマホ化は確かに進行していますが、車にはデザイン造形や運転する楽しさもあります。責任者が目まぐるしく変わったアップルは、MacやiPhoneで実現したような人を魅了するパーソナルカーの形を最後まで明確に定義できなかったのではないかと思います。