世界的にEVの普及は強弱があるものの着実に進みつつある。そして、さらなる普及の起爆剤となることが期待されているのが「全固体電池」だ。現状の液体電池に比べて、どこがどう優れているのか。そして、EVにどれほどの性能向上が期待できるのかを説明したい。(タイトル写真は日産の全固体電池試作生産設備)

各社が2027〜2028年に実用化を目指す

次世代の電気自動車(EV)用のバッテリーとして、大いに期待されているのが全固体電気だ。トヨタは2023年6月に「クルマの未来を変える新技術を公開」のリリースで、全固体電池について「課題であった電池の耐久性を克服する技術的ブレイクスルーを発見した」と発表した。

その結果を受けて、2027〜2028年の実用化にチャレンジするとアナウンスしている。そして10月には、石油精製を行う出光興産と全固体電池の量産に向けて協業することを発表。実用化に向けて着実に歩んでいる様子が伺える。

画像: トヨタが公開している全固体電池のプロトタイプ。

トヨタが公開している全固体電池のプロトタイプ。

画像: 協業を発表した出光興産とトヨタは全固体電池とその材料となる硫化物固体電解質の特許件数で世界トップクラスだという。協業により世界標準を狙う。

協業を発表した出光興産とトヨタは全固体電池とその材料となる硫化物固体電解質の特許件数で世界トップクラスだという。協業により世界標準を狙う。

また、日産は2022年4月に全固体電池の試作生産設備を公開。こちらも2028年度に全固体電池を登載するEVのリリースを予告している。

さらにホンダも2023年4月に発表した「2023ビジネスアップデート説明概要」において、「2024年に全固体電池の実証ラインを立ち上げ、2020年代後半に投入されるモデルへの採用を目指す」と説明している。

トヨタ、日産、ホンダという日本を代表する自動車メーカーが、そろって2028年ごろに全固体電池を実用化するというのだから、期待が高まるばかりといったところだ。

全固体電池の現時点で唯一の弱点は劣化が早いこと

ところで、全固体電池とはいったい何者なのだろうか。ものすごく簡単に言えば、電解質を固体にしたリチウムイオン電池ということになる。リチウムイオン電池は、正極材と負極材との間で、イオン電子をやり取りすることで放電と充電を実現する。その正極材と負極材の間で、イオン電子の通り道となるのが電解質だ。そして、今あるリチウムイオン電池の電解質は液体だが、その液体を固体にしてしまおうというのが、全固体電池となる。

画像: トヨタが説明する全固体電池のメリット。

トヨタが説明する全固体電池のメリット。

電解質を固体化することで、何が良いのかといえば、「液漏れしない」、「作動温度域が広い」、「イオン電子のやり取りが早い」ことが挙げられています。「液漏れしない」ということは安全性アップになりますし、「作動温度域が広い」のは世界各地で使われるEVにとって嬉しい特性だ。そして「イオン電子のやり取りが早い」は、充電時間の短縮につながる。ただし、なかなか実用化されないのは、「劣化が早い」という欠点を克服できていないのが理由のようだ。

また、現実的に、どれほどの性能になるのかは、まだ実用化されていないため不明だ。実際に現在は開発中のため、ゴール時には、どれほどの性能になるのかは、まだ誰もわかっていないとも言える。

航続距離は現在の2倍以上になりそう

ただし、各自動車メーカーが全固体電池開発に掲げる目標は以下のように明示されている。

トヨタは、航続距離のアップと、急速充電10分以下を目指すと説明している。航続距離は、現行「bZ4X」の搭載電池よりも2倍を目指す「パフォーマンス版」のさらに20%アップ、将来に向けては「パフォーマンス版」の50%アップとか。車両の改良も含むというが、現行EVの2.4倍から3倍になる計算だ。

そして日産は充電時間3分の1の短縮とエネルギー密度2倍を謳う。エネルギー密度が2倍であれば、やっぱり従来と同じ電池で2倍の距離が走れてしまう計算になる。つまり、目標とするのは、現在のバッテリーの2倍以上という性能だろう。

2028年の実用化といえば、これからまだ4年もの歳月があるが、どれだけ進化した次世代バッテリーが登場するのか、大いに期待したい。

●著者プロフィール
鈴木 ケンイチ(すずき けんいち)1966年生まれ。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。自動車専門誌を中心に一般誌やインターネット媒体などで執筆活動を行う。特にインタビューを得意とし、ユーザーやショップ・スタッフ、開発者などへの取材を数多く経験。モータースポーツは自身が楽しむ“遊び”として、ナンバー付きや耐久など草レースを中心に積極的に参加。

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