東京都でまずは数十台を導入しエリア拡大も視野に
2050年までに交通事故死者数ゼロを目標に、先進運転支援システムと自動運転の技術開発を進めるホンダは2021年3月、限定的にアイズオフを可能とする自動運転レベル3「ホンダセンシングエリート」を世界で初めて市販車両に搭載した。「レジェンド ハイブリッドEX ホンダセンシングエリート」として、リースのみ100台限定で発売した。
これ以降も市販車ビジネスにおける自動運転の実装に向けた次世代技術の発表は行われてきたが、実際に発売されたモデルはない。
その一方でロボタクシー(自動運転タクシー)の自動運転モビリティサービス分野においては、2021年1月にGMとGM傘下で自動運転を手がけるクルーズ社との協業を開始した。日本におけるサービス実装に向けて実証実験を行うとともに、2020年代半ばでの導入を目指して研究が進められてきたのだ。
そして今回、新たな展開が発表された。ホンダとGM、クルーズ社の3社は2024年前半に東京を拠点とした合弁会社を設立(ホンダが資金の過半数を出資)、2026年初頭に東京都内で自動運転レベル4を実現するシステムを搭載した6人乗り車両「クルーズ・オリジン」で、自動運転モビリティサービスを開始するのだという。
専用のスマートフォンアプリで設定すると、迎車から目的地到着まですべて自動運転で走行してくれるタクシー配車サービスだ。2026年初頭に数十台を導入したのち500台程度まで拡大、サービス提供エリアの拡大も検討されている。
東京は大きなロボタクシー市場になる
クルーズ・オリジンの詳しいスペックは公開されなかったが、GMの電気自動車用プラットフォーム「アルティウム」をベースに、ホンダがトップハット(上屋)を制作、自動運転領域の開発をクルーズ社が担う。またドライバーズシートやハンドルは設けられず、パッセンジャーシート6脚が対面で配置される。
実装に向けてはまず、GMのボルトをベースにした「クルーズAV」を使って、東京都内における自動運転レベル4の実証実験が行われる。一方、ドライバーズシートもハンドルもないクルーズ・オリジンは研究施設内(クローズドコース)での走行実験が続けられるのだという。
2023年4月1日の改正道路交通法施行によって自動運転レベル4が解禁されたとはいえ、一般的な乗用車とは構造が大きく異なるクルーズ・オリジンの型式認定をどう取得するのか、緩和規制を利用するのかなど、今後関連省庁との調整も行われる。
記者会見に登壇したクルーズ社の創業者でCEOのカイル・ヴォクト氏は、「タクシードライバーの人材不足が進む日本において、その中でも人口密度が高い東京はロボタクシーの大きなマーケットです。多くの人に安全で安心したアクセス手段を提供できることはインパクトになるはずです」と導入に向けての意気込みを話した。
ホンダの取締役代表執行役社長 三部敏宏氏は、「クルーズとGMとの協業による自動運転タクシーサービスを通じて、日本のお客様に新たな移動の価値を体験いただき、人々の移動の質を高め、移動の喜びを環境負荷ゼロで、さらにより安全に提供します。これは、先進モビリティ社会の実現に向けた大きな一歩です。この新しい価値創出の実現にむけ、クルーズとGMと邁進してまいります」と語った。
その上で自動運転モビリティサービスを開始する地域として、いくつもハードルがあるであろう東京を敢えて選んだという。歩行者や自転車が多いだけでなく、近年では電動キックボードをはじめとする電動スマートモビリティも増えている首都で実装できれば、日本全国はもちろんのこと世界のあらゆる地域に対応、展開できる、そんな思いがあるのかもしれない。
クルーズ・オリジンは、2023年10月28日から11月5日に一般公開される「ジャパンモビリティショー2023」のホンダブースで展示される。