9月中旬、欧州委員会は、雪崩を打ってEU市場に進出を始めた中国メーカー車が不当な政府援助によって低価格で売られており、公平な競争を阻害している可能性があるとして調査を始めると発表しました。直前にIAAモビリティがミュンヘンで開催され、ドイツと中国の自動車メーカーが「自由でフェアな競争」を確認し合ったばかりだっただけに、この発表は驚きを持って迎えられました。中国商務省はすぐさま、「露骨な保護主義的行動」と非難しましたが、EUの指摘は果たして事実を突いているのでしょうか。オートモティブニュース・ヨーロッパ(以後ANE)紙の報道“How China-made EVs are affecting Europe's key segments”などを参考にしながらこの点を探ってみます。(タイトル写真はNIO ET5。同社インスタグラムより)

そもそも中国製車とは何を指すのか

一部の報道では、欧州市場で中国製車が既に8%のシェアとありますが、そもそも中国製車の定義は何でしょうか。英国を中心にシェアを伸ばしているMGは上海汽車(SAIC)傘下のブランドで中国で生産されていますが、英国人はMGという往年のスポーツカーブランドを中国製と意識していないかもしれません。ボルボは吉利汽車(Geely)が82%の株式を保有していますが、欧州で販売されている車両は欧州内生産であり、ボルボを「中国ブランド」と考える人はいないでしょう。一方で、その傘下のポールスターは、全量中国で生産されています。

中国製の定義が紛らわしいのですが、今回の欧州委員会の調査の場合、「中国内で生産され欧州に輸入販売されている車両」が対象で、中国ブランド車だけでなく、中国の工場で生産されたテスラ「モデル3」やBMW「iX3」、ポールスター2/3、ルノーグループのダチア・スプリングス、スマートなどを含みます。

欧州に輸入される中国生産車の6割以上はEVです。今年1〜7月に西ヨーロッパ(※1)に輸入された中国製EVは224,254台ですが、その半数以上の136,823 台が欧米自動車メーカーの輸入車であり、その内68%が上海工場製のテスラです。※1:2004年以前からのEU加盟国にノルウェー、スイス、アイスランド、UKを加えた欧州主要18カ国。

画像: 欧州向けテスラモデル3は全量が上海工場から輸出されており、モデルYはベルリン郊外の工場で生産される。

欧州向けテスラモデル3は全量が上海工場から輸出されており、モデルYはベルリン郊外の工場で生産される。

中国車の脅威は、「事実というより理論上」のもの?

エンジン車を含めて西ヨーロッパで一番売れている中国ブランド車(※2)がMGで、今年1〜7月に118,610台を販売しています。次が吉利汽車とボルボの合弁のポールスター、さらにチェリー(奇瑞汽車)、吉利汽車傘下のLink&Coが続きますが、これらの販売台数は2万台前後です。昨年秋から欧州で販売を始めたBYDに至っては4,960台に過ぎません。つまり、中国車の脅威といっても欧州市場のシェアまだ2.8%で、その6割をMGが占めます(但し、EVに限るとシェアは8%と急上昇中)。※2:MGやポールスターは中国資本傘下でかつ全量中国で生産されており「中国ブランド車」と定義。

もちろん、20%のコスト優位があるとされる中国ブランド車のシェアが将来20%になるという予測もあって侮ることはできませんが、現状は「中国車の脅威は、事実というより理論上のもの」とANE紙のニック・ギッブス記者も書いています。

画像: MGは人気EVであるMG4やMGZSなどに続いて「サイバースター」を2024年に導入し、スポーツカーヘリテージをアピールする(写真はIAAモビリティの展示より)。

MGは人気EVであるMG4やMGZSなどに続いて「サイバースター」を2024年に導入し、スポーツカーヘリテージをアピールする(写真はIAAモビリティの展示より)。

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