9月中旬、欧州委員会は、雪崩を打ってEU市場に進出を始めた中国メーカー車が不当な政府援助によって低価格で売られており、公平な競争を阻害している可能性があるとして調査を始めると発表しました。直前にIAAモビリティがミュンヘンで開催され、ドイツと中国の自動車メーカーが「自由でフェアな競争」を確認し合ったばかりだっただけに、この発表は驚きを持って迎えられました。中国商務省はすぐさま、「露骨な保護主義的行動」と非難しましたが、EUの指摘は果たして事実を突いているのでしょうか。オートモティブニュース・ヨーロッパ(以後ANE)紙の報道“How China-made EVs are affecting Europe's key segments”などを参考にしながらこの点を探ってみます。(タイトル写真はNIO ET5。同社インスタグラムより)

中国の新興EVメーカーはどれほど脅威なのか

ニューヨーク・タイムス紙で長年自動車産業を取材し、現在は北京支局長のキース・ブラッドシャー氏は10月5日付け記事で、中国の3大新興EV企業の一つのNIOについて「1台ごとに35,000ドルの赤字」と書いています。NIOの今年第2四半期の決算は8.35億ドル(約1250億円)の赤字で、同期間の24,000台の販売台数で計算すると一台当たり35,000ドルの赤字になるわけです(但し、第3四半期は新車効果もあり55,432台と大きく躍進)。

そのNIOは、2020年に資金繰りに困った際に、地元安徽省や同省の息のかかった銀行団から計27億ドルの資本注入や融資を受けましたが、一方で、2018年にニューヨーク証券取引所に上場して以来活発に資金調達をしており、2021年には1000億ドル近い時価総額をつけました。現在の株価は8ドル台と低迷していますが、時価総額は145億ドル(※3)(2兆1000億円)でSUBARUと同等、マツダの倍以上です。※3:10月7日現在

画像: NIOはバッテリー交換ステーションを中国で1200ヵ所以上設置済み。欧州でも設置を進めている。

NIOはバッテリー交換ステーションを中国で1200ヵ所以上設置済み。欧州でも設置を進めている。

中国のテスラともてはやされたNIOは、バッテリー交換ステーションを全国に設置して顧客に生涯無料の電池交換サービスを打ち出したり、乗員が映像をシェアできるARグラスや、最近ではNIOブランドのスマートフォンを発売するなど、クルマのユーザー体験を変える試みを次々に打ち出しています。まだ累計で30数万台を販売したに過ぎませんが、その取り組みは投資家の注目を浴び続けており、ウイリアム・リー会長は、「テスラは黒字化に17年かかっています。私たちも長い目で見て欲しい」と語っています。

今年7月にフォルクスワーゲンから約1000億円の出資を受けると発表され一躍脚光を浴びたシャオペン(Xpeng)は、広州市に2014年に設立され、2020年にニューヨーク証券取引所に上場、同11月には株価が70ドルに迫りました。2022年の世界販売台数は約12万台でNIOと同水準ですが、高級SUVが売れているNIOと比べると売上高は約半分です。株価は2022年末には6ドル台まで下落しましたが、VWとの提携発表で3倍に上昇、現在は18ドル前後で時価総額は157億ドルとNIOとほぼ同じです。

画像: シャオペンが今年6月に発表した全長4.7m超のクーペSUV「G6」。800ボルトの電装システムやSiC(シリコンカーバイト)製のチップを使い13.2kWh/100kmの低電費、10分で300キロの高速充電、AIコーパイロット付自動運転などを搭載する先進EVで価格は25万元ほど。(写真は同社インスタグラムより)

シャオペンが今年6月に発表した全長4.7m超のクーペSUV「G6」。800ボルトの電装システムやSiC(シリコンカーバイト)製のチップを使い13.2kWh/100kmの低電費、10分で300キロの高速充電、AIコーパイロット付自動運転などを搭載する先進EVで価格は25万元ほど。(写真は同社インスタグラムより)

シャオペンに出資したVWやSAICの子会社からEVプラットフォームを調達するアウディは、中国自動車メーカーの実力を認めて提携する戦略に出ました。ドイツが中国の自動車産業との協力関係を一層深めつつある中での今回のEUの調査は、EU内部の利害の違いを浮き彫りにしたともいえます。

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