4年に一度行われる「デトロイト3」の自動車メーカーと全米自動車労働組合(UAW:自動車、航空、農業の各産業の労働者の組合組織で、米国、カナダ、プエルトリコで約40万人の現役ワーカーと58万人の退職者がいる。設立は1935年)の労働協約の交渉が9月14日の期限までに決着せず、翌日から史上初となる3社に対する同時ストライキが実施されてから1週間が経ちました。依然両者の溝は深く、UAWは各社1ヶ所ずつの完成車工場に加えて、GMとステランティスの全米38ヶ所の部品センターでのストライキに入りました。(タイトル写真はUAWのFacebookベージより。MOPARはステランティスの部品のブランド名)

労働者階級を代弁してさらに求心力を高めるか

ロイターの調査にもあるように、今回のUAWの闘争は、コロナ禍やウクライナ戦争によるインフレや急激な金利の上昇によって影響を受けている労働者層と、景気後退の懸念のある中で、好調な業績を続ける巨大企業や株式市場の対比に象徴される格差の拡大の中で、一際注目を集めているように思われます。仮にフォードがUAWの条件に歩み寄って先に合意に至れば、GMやステランティスも同等の条件を呑むことへのプレッシャーが高まり、ストが長期化するほどに失われる利益は増大していきます。GMは2019年の協約交渉でも40日間のストライキで40億ドル(6000億円)近い減収を余儀なくされました。

今回のUAWの闘争への支持がどの程度広がり、どのような成果を生むかは、今後の他の産業の労働者の賃金や労働条件に一定の影響を与えることも予想されます。1970年代の最盛期には150万人、今世紀初めでも60万人の組合員を抱え、米国最強の労組として恐れられていたUAWですが、1980年代以降、日本の自動車メーカーが米国市場を席巻し、オハイオ州のホンダ工場以南の南部に立地した日本や韓国、ドイツメーカーの現地生産工場(※)はUAWに加入しておらず、何度も行われた組織化も失敗しており、今日では組合員数は40万人まで減っています(このうちデトロイト3に就業する組合員は15万人)。弱体化の一途を辿ると思われたUAWですが、今回の交渉では、インフレや米国政治の分断と格差の拡大などを背景に、近年にない注目を集めているようです。(了)
※:ケンタッキー州(トヨタ)、テネシー州(日産、VW)、ジョージア州(KIA)、サウスカロライナ州(BMW)、アラバマ州(マツダ・トヨタ、メルセデス・ベンツ)、ミシシッピ州(トヨタ)などがある。

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。

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