いよいよ普及期に入ってきたと言えるEVだが、今後、技術的に注目されるものがふたつある。ひとつはEV専用の車載OSで、もうひとつが「全固体電池」だ。ここでは全固体電池について、実用化はどういう意味を持つのか。EVメーカーにどのような影響を与えるのかを考えてみた。(タイトル写真は日産が2022年4月に公開した全固体電池の試作生産設備)

現在の課題を一気に解決してしまう可能性も

次世代のEVの駆動用二次電池として期待されているのが「全固体電池」だ。これは文字通り、電池の中にある、これまで液体であった電解質を固体に置き換えるというもの。従来の液体のリチウムイオン電池と比べると、同じサイズでも、より容量が大きくなり、充電にかかる時間も短縮されるという。さらに電解質が漏れて発火することもなく、安全性も高まる。まさに夢の次世代の電池として期待されているものだ。

日産やトヨタでは2028年ごろを目途に実用化を目指しているという。特に日産は、具体的に「充電時間を3分の1に短縮」、「2028年にコストを1kWhあたり75ドル、その後、65ドルまで低減する」とメリットを説明している。

もしも、日産やトヨタの言うとおりに、全固体電池が実用化されれば、EVの商品力は大きく向上することだろう。1kWhあたり65〜75ドルというのは、現在のリチウムイオン電池の半額近い価格となるからだ。

画像: 日産が2028年度の実用化を目指して研究開発を行っている全固体電池の積層ラミネートセルを試作生産する設備。

日産が2028年度の実用化を目指して研究開発を行っている全固体電池の積層ラミネートセルを試作生産する設備。

たとえば、66kWhの日産のEV「アリア」の価格は、539万円〜となっている。これが1kWh=75ドル、1ドル=140円で計算すると、66kWhの電池の価格は69万3000円となる。これが半額になっているとすれば、同額分だけ「アリア」の車両価格が下がる可能性があるのだ。つまり、539万円−69万3000円=469万7000円となる。

また、同サイズで、より電気容量が大きくなり、充電時間も短くなるのであれば、より大きなバッテリーを搭載することもできるようになる。

たとえば、今のEVと同じ価格であれば、電池の容量は2倍になる。航続距離も2倍近くにできるだろう。それでいて、充電時間は従来の3分の2ほどになる計算だ。一充電における航続距離1000kmを超えるEVが登場するのは間違いないことだろう。

期待される全固体電池の実用化、どこのメーカーが先陣を切るのか。EVメーカーの勢力図を一気に塗り替えてしまう可能性があるだけに、これから各社の技術発表などに注目が集まるはずだ。

●著者プロフィール
鈴木 ケンイチ(すずき けんいち)1966年生まれ。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。自動車専門誌を中心に一般誌やインターネット媒体などで執筆活動を行う。特にインタビューを得意とし、ユーザーやショップ・スタッフ、開発者などへの取材を数多く経験。モータースポーツは自身が楽しむ“遊び”として、ナンバー付きや耐久など草レースを中心に積極的に参加。

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