アメリカン・ホンダモーター、BMWグループ、ゼネラルモーターズ(GM)、ヒョンデ、キア、メルセデス・ベンツグループ、ステランティスN.V.の大手7社が、米国・カナダで充電規格のNACSとCCSに対応するEV用高出力充電器を採用する新たな充電ネットワークを構築する合弁会社の設立に合意、2023年内に会社設立を目指すことを発表した(現地時間2023年7月26日)。躍進著しいテスラへの牽制という分析が多いようだが、ほんとうにそれだけなのだろうか。さまざまな状況証拠から、その真の狙いを推理する。

7社連合の狙いはSDV時代を見すえたデータ収集

ずばり「車両運行データ」である。テスラは自社が運営するスーパーチャージャーに実装した「プラグ&チャージ」、つまりプラグを差し込むだけで充電と課金が同時に行われる仕組みを介して、さまざまな運行データを吸い上げ、いわゆる車載OSとソフトウエアを開発・進化させてきた。

いまやOTA(Over The Air)を当たり前のように行うテスラの優位性は、この斬新かつ周到に考えられたシステムのうえに成り立っている。上述のとおりNACSの規格そのものはオープンになったものの、テスラはこの「プラグ&チャージ」システムの詳細は明らかにしていない。

対して、今回参加する7社は独自の広域充電ネットワークを持たず、充電サービス事業者に頼り切りだった。つまり、EVを市販してもその先の運行データの蓄積は十分ではなかったのだ。

ソフトウエア中心のクルマ作り=SDV(Software Definied Vehicle)の時代を迎え、これは致命的だ。自前の広域充電網やアプリがなければ、スーパーチャージャーのネットワークに相乗りするしか選択肢はない。うがちすぎなのかもしれないが、そういう観点で見ると疑問のいくつかが解消するのだ。

プレスリリースの文末には「充電ステーションの予約や決済などは、この合弁会社に参画する自動車メーカーの車載システムやアプリを通じてシームレスに利用可能です。さらに、プラグ&チャージ技術も活用するなどお客様に質の高いEV充電サービスを提供していくことを目指します」と記載されている。“車載システム”、“アプリ”といった文言にその真意が透けて見えないだろうか。

各社の思惑が見え隠れする今回の合意内容

そう考えると、独自の車載OSを開発中のトヨタやフォルクスワーゲングループ(開発は難航しているらしいが)が今回の話に乗ってこなかったのも辻褄が合う。もっとも、将来はわからない。北米大陸を走る膨大な数のEV走行データは両陣営にとっても非常に利用価値が高いだろう。フォードやボルボ/ポールスター、リビアン、そして日産も参加する可能性はある。

以上は、あくまで状況証拠(?)から組み立てた仮説なので本当のところはわからない。テスラ発祥のNACSを使いながら構築される「テスラ包囲網」と、それを受け入れたテスラの判断については、現時点で合理性を見いだすのはなかなか難しいことなのかもしれない。

いずれにせよ、NACSが米国における事実上のプラットフォームとなったことで、第1ラウンドはテスラの勝利だ。戦いは第2ラウンドに突入し、車載OSとソフトウエアの開発競争になる。そして背後に見え隠れするのはひたひたと迫る中国勢の影……。いずれにせよ、ことの背景や真意が明かされるのは年内とされる新会社設立まで待つしかないだろう。

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