2024年からEVの輸出に10%の関税がかかる
物品の貿易に関して重要なのが“rules of origin(RoO-原産地規定)”で、一般的な完成車は、UKおよびEU域内の「原産地率」が55%以上(非原産地率が45%以下)であれば関税はゼロとなります。一方、EVに関しては、この比率が製品として40%以上、バッテリー(パック)で30%以上であれば(7割が域外からの調達)であっても無税とする3年間の時限措置が取られました。
これが2024年1月からは、EVは製品としての原産地率が45%、バッテリーでは60%以上に大幅に引き上げられるのですが、特にEVバッテリーについては欧州内での生産が本格的に立ち上がっておらず、電池セルの供給を中国やアジアに頼っている現状では、大部分のEVが関税の対象になってしまいます。このため、ACEA(欧州自動車工業会)やUKの自動車製造販売協会(SMMT)は、現在の時限措置をさらに3年間、2026年末まで延長するように要請しています。
ACEAによれば、EUには213箇所、UKには36箇所の自動車製造工場(エンジン、バッテリー、乗用車、トラック・バス等)があり、同会のメンバーである欧州自動車メーカー14社の2022年の輸出額1560億ユーロのうち(その14%にあたる)223億ユーロがEVで、そのうち4分の1が英国向けだということです。もし予定通り45%/60%の原産地率がEVに適用されれば、向こう3年間に43億ユーロもの関税がかかると試算しています。
中国メーカーに席巻される危惧
EUに先駆けて2035年にエンジン車の販売禁止を決定したUKでは、今年1〜5月のEVの販売台数は12万1000台と総市場中のシェアが16%に上り、EU諸国にとって最大のEV輸出市場ですが、実は中国製EVが大きくシェアを伸ばしています。
UKの2022年のEV市場におけるACEAメンバーのシェアが47%に対し、中国産車のシェアは32%に急増(2019年はわずか2%)しており(※1)、上海汽車傘下のMGや長城汽車のOraなどがEVを足がかりにUKでシェアを伸ばそうとしています。(※1:但し、欧州メーカーも中国製の自社ブランド車を輸入している点に留意が必要)
英国の伝統あるヘリテージカーイベントである「Goodwood Festival of Speed」でも、今年はMGが来年発売予定のEVロードスター「サイバースター」をワールドプレミアし、新興の中国高級EVメーカーHiPhi(ハイファイ)やNIOが出展しており、ベントレーやロールスロイス、ランドローバーなどの高級ブランドのホームグラウンドでその存在感を強めています。