英国内生産メーカーの将来に暗雲
Brexitによって、EUとの間に貿易障壁が生まれ、欧州大陸への輸出競争力が削がれる危惧を抱いた英国現地生産メーカー、特に1980年代以降に同国で現地生産を進めて自動車産業の復興に多大な貢献をした日本メーカー(日産、トヨタ、ホンダ)は、2018年に当時のテレーサ・メイ首相に対して、駐英日本大使とともに陳情するなど強く警鐘を鳴らしました。
そうした業界や英政府の焦りからマラソン交渉の末、先のUK-EUの通商協力協定(TCA)が2020年12月のギリギリの段階で締結された経緯がありますが、今それに近い危機感が英国生産メーカーにはあります。
ステランティスは、ルートン(Luton)工場でベストセラーの大型バンの「ボクスソール・ヴィヴァーロ(Vauxhall Vivaro)」を、かつて「アストラ」を生産していたエルスミアポート(Ellsmereport)工場で、オペル/ボクスホール・コンボ、プジョー・パートナー、シトロエン・ベルランゴなどのコンパクト乗用タイプバンを生産しており、2021年には1億ポンド(180億円)の追加投資も発表しています。同社は今年5月に英政府に対して、関税免除の延長の措置を取らない限り、UK生産を続けることは難しいと告げています。
ドイツの15分の1に満たない英国のEVバッテリー生産計画
ファイナンシャルタイムズ(FT)紙も、今年3月に「EV生産への移行に苦悩する英国 “UK struggles with transition to manufacturing electric cars”」と題した記事で、2017年までは概ね150万台規模あった生産が、(コロナ禍や半導体不足の影響もあるものの)2022年にはわずか77万台まで減少しており、さらにEVのEU向け輸出に関税がかかるようになれば、同国の自動車製造業の将来に暗雲が垂れ込めるとしています。
同紙によれば、EVバッテリーの生産計画を見ても、欧州で30以上あるギガファクトリーの建設計画のうち、UKでは日産とエンビジョンAESCのサンダーランド工場の計画以外に具体化したものがなく、その量は年間20GWh程度です。テスラや世界最大のEV電池メーカーである中国のCATL、スウェーデンのノースボルトなどが計360GWhもの生産を計画するドイツの15分の1、ルノーやステランティスなどが電池メーカーと100GWhを超える生産計画を持つフランスの5分の1程度に過ぎません。