2030年以降エンジン車禁止で日本勢はどうする?
また、英国は2030年以降、内燃機関のみの車の販売を禁止する予定(ハイブリッド車も2035年以降は禁止)で、同国でカローラを生産するトヨタが撤退するのではという報道が昨年流れました。トヨタは将来は「未定」としましたが、現在の政策下では2026年頃に登場するカローラの次期モデルの生産に投資する見込みはないとの見方もあり、英国のゼロエミッション政策が自動車メーカーとそのサプライチェーンを長期的にサポートする形になっていない、とFT紙は指摘しています。
年間50万台の能力で英国最大の生産メーカーである日産は、リーフの次世代モデルを生産することは決定し、BMWもオックスフォードの工場でMINIの次期モデルの生産を継続する方針(同EVの生産は中国に移管)で、エンジンや変速機の工場を持つフォードを含めて、これらのブランドは英国生産の将来にコミットしています。
また、インドのTataグループ傘下にあるジャガー・ランドローバー(JLR)は「エレクトリック・ファースト」の電動化戦略を加速させていますが、同社のバッテリー工場を(スペインでなく)英国内に誘致したいなら、5億ポンドの補助金を望むと英政府と交渉している模様です(※2)。(※2:FT紙報道による)
EUは果たして動くのか?
自動車業界からの悲鳴(恫喝?)にさすがに英政府も焦りを感じているようです。オートモティブニュース・ヨーロッパの記事によれば、最近もスナク首相がドイツのショルツ首相に直接連絡して時限措置の延長に協力を依頼したようです。
フランスのマクロン大統領はテスラのイーロン・マスク氏と直談判して同国内への工場誘致をするなどEV産業誘致に積極的ですが、スナク政権は、歴代の首相に比べて自動車産業への熱意が薄いようだ、とFT紙も辛口のコメントをしています。
若さとインドーアフリカ系というルーツで、登場時は「英国のオバマ?」と新鮮さを感じたスナク首相ですが、億万長者の妻を持つことで、一般有権者からの支持については疑問符も付いています。自動車産業政策の舵取りを間違えれば、次期総選挙で労働党に政権を奪取されてしまうかもしれません。
EVバッテリーの「原産地率」については、4月に実施された米国IRA法の補助金の基準では、希少金属の調達や精錬で40%、電池コンポーネントで50%ですが、当初は一部の米国メーカー製モデルが該当したにとどまりました。ACEAは、欧州委員会へのレターにおいて、UKへの輸出で関税ゼロとなるEU生産車は2024年はわずか10%程度で、価格競争力の低下により3年間でEU内で48万台の生産が失われると警告しています。
EU委員会は今のところ時限措置延長の意志は見せていませんが、内々には検討されているようです。欧米や中国でEVバッテリーを産業戦略物資として生産の囲い込みが進む中、本件がどういう決着を見るのか注視していきたいところです。(了)
●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。