自動車産業の「100年に一度の変革」を促すEVの鍵を握るのはバッテリーの性能でありコストですが、その価格は現状リチウムなどの電池材料の高騰などで下げ止まっています。希少鉱物のリサイクリングの取り組みと並行して注目されているのがEVバッテリーの二次利用ですが、現状は思ったように進んでいないようです。最近のロイターの報道を見ながら、その理由を探ってみたいと思います。(タイトル写真:日産自動車)

そもそも出回っている数が少ない

この記事のタイトルは、「EVバッテリーの第二の人生? 最初がどのくらい長いかによる(A second life for EV batteries? Depends how long the first is)」ですが、中古電池の市場自体が現在のところ「ほぼ存在しないに等しい」ことが最大のネックのようです。

中古のEVバッテリーの価格は、新車用に自動車メーカーが調達するコストのほぼ倍の1kWh(キロワットアワー)あたり235ドルの高値で、つまりテスラ「モデル3」の電池容量である75kWhだと17,600ドルになります。これでは、新品のバッテリーで蓄電池を生産した方が安いわけです。

バッテリーが中古市場に出てこない最大の理由の一つが、EVの所有期間が予想以上に長いためです。多くの自動車メーカーは、8〜10年または走行16万キロまでSOC(充電率)の80%を保証しており、その後はEVとしての役割を終えて二次利用のマーケットに出てくると想定されています。しかし実際は、EVは2人目、3人目の所有者のもとで、残存容量が半分程度になっても利用されているケースが多々あります。

このロイターの記事でも、航続距離が新車の3分の1の40マイル(66km)まで低下した2011年モデルの日産「リーフ」を3,500ドルで買ったアメリカのユーザーの例が出ていますが、日本でも中古車サイトでリーフを検索すると1,700台ほど掲示され、その中には残存量が「セグ7」(※)や「満充電80km」で価格が20万円以下の車両も結構あります。※リーフのバッテリー容量の表示は12セグあるので半分強。

画像: 日産リーフはこの初代モデルが2010年末に発売以来、世界で累計60万台、日本でも17万台を販売している(写真:日産自動車)。

日産リーフはこの初代モデルが2010年末に発売以来、世界で累計60万台、日本でも17万台を販売している(写真:日産自動車)。

米国も日本も、自動車の平均寿命は約13年にまで伸びており、8年ではまだバリバリの現役です。またEVは、複雑な構造を持ち修理やメンテナンスにコストのかかるエンジンがないため、一般的にエンジン車より寿命は長くなると言われており、廃棄までにより多くの年月を要すると思われます。

使用済み電池の検査に手間がかかる

もう一つの問題は、廃車になったEVのバッテリーの性能を検査して再利用する業態が確立していないことでしょう。日産自動車と住友商事が共同で設立した「フォーアールエナジー」は、2018年に福島県浪江町で使用済みバッテリーの再生を手がける工場の操業を開始しましたが、セルモジュールごとに性能を測定をして、再利用可能なセルとリサイクルに回すセルを選別するのは、かなりの時間を要します。

再利用可能なセルは3グレードに分けて、リーフの交換バッテリー用に出荷されるものから、ゴルフカートやJR東日本の路線の遮断機のバッテリーに再生するものまで、様々な形に姿を変えています。

画像: フォーアールエナジーの福島県浪江工場。電池が使用時にどのような使い方をされたかをトラッキングしたデータを日産は持っており、それを利用すれば「残寿命の予測」が容易になるそうだ。(写真:日産自動車)

フォーアールエナジーの福島県浪江工場。電池が使用時にどのような使い方をされたかをトラッキングしたデータを日産は持っており、それを利用すれば「残寿命の予測」が容易になるそうだ。(写真:日産自動車)

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