2023年1月、米国・ラスベガスで開催された「CES2023」において、ソニーグループは本田技研工業との共同出資会社「ソニー・ホンダモビリティ株式会社」が2025年に新たなEVの受注を開始し、翌2026年に北米や日本で発売すると発表した。その第1号モデルのプロトタイプを「CES2023」のソニー会場で披露した。ソニー・ホンダモビリティが目指す、新たなモビリティ像を追った。

ソフトウェアによる制御で広がる世界

2023年1月、AFEELA(アフィーラ)がデビューした際、ソニー・ホンダモビリティは、このブランド名に含まれる意味を3つのコンセプトで紹介した。そこにはAutonomy(進化する自律性)/Augmentation(身体・時空間の拡張)/Affinity(人との協調、社会との共生)の3つだ。

今、モビリティは提供されたものをそのまま使う時代から、必要に応じて拡張、あるいは進化させていく時代に入ろうとしている。つまり、AFEELAの“A”は、アップデートによって常に進化していくことで、ユーザーが関わる時空間を拡張させ、同時に周囲とのネットワークによって協調できる環境の実現を目指すことを意味しているというわけだ。

画像: ソニー・ホンダモビリティが「CES2023」で発表した新ブランド「AFEELA」第1号モデルのプロトタイプ。

ソニー・ホンダモビリティが「CES2023」で発表した新ブランド「AFEELA」第1号モデルのプロトタイプ。

その中心にあるのが、ソフトウェア・デファインド・ヴィークル(SDV)と呼ばれる新しいクルマのプラットフォームだ。これはハードウェアに合わせて個別にソフトウェアを開発してきた従来の考え方ではなく、主にソフトウェアによって機能や特徴が決まる車両のことを指す。

これまで機械的に制御していた部分をソフトウェアによって柔軟かつ緻密に制御できるプラットフォームに置き換えるのだ。

たとえば、自動車は今、ハンドルやブレーキペダルの操作をバイワイヤ技術でサポートする時代を迎えようとしているが、これらの制御はすべてソフトウェアによってサポートされる。

よって、その制御そのものをソフトウェアのアップデートで対応することができ、しかもコネクテッドで外部とつながっているクルマは、ユーザーが車両を使いながら気付かないうちにアップデートが終了させることができるのだ。

ソニーとホンダの協業で初めて可能になること

その導入は着実に進み始めており、すでにコネクテッド機能を持つ車両は修正が必要になっても、OTA(Over The Air)によって一斉にアップデートすることが可能となっている。

これがさらに拡張されれば、もし車両が緊急事態に陥った時、そのフィードバックから適切な回避動作を挿入することだって不可能ではない。つまり、クルマがソフトウェア中心で構成されることで、クルマそのものの作り方が根本から覆されようとしているのだ。

実はソニーホンダモビリティがAFEELAで実現しようとしているモビリティは、こうした考え方に基づいて開発される。ソニーは自社をかねてより「ソフトウェアカンパニー」であることを標榜しており、その実力をクルマという新たな事業においても存分に発揮したいと考えている。

画像: 後席には乗車した人がそれぞれ好みのコンテンツを楽しむために専用モニターを装備する。

後席には乗車した人がそれぞれ好みのコンテンツを楽しむために専用モニターを装備する。

それはソニーが最も得意とするエンタテイメントの分野だけにとどまらない。先進安全装備であるADASの領域においても、その能力はいかんなく発揮できると考えているはずだ。

ソニーがEVのプロトタイプ「VISION-S」を開発したのも、そうした想いが背景にあったことは容易に推察できる。ただ、ソニーにはITや家電事業での経験はあっても、自動車という分野における安全への経験値は圧倒的に不足している。VISION-Sでの経験は逆にクルマを作る上で何が不足しているかを改めて考えるきっかけともなったはずだ。

自動車における安全性を担保するのは一朝一夕でできるものではなく、そこに経験のある自動車メーカーとの協業は欠かせない。ホンダとの関係に発展するにはこうした背景があったと見るべきだろう。

クルマには走り以外の楽しみ方がある

ではソニー・ホンダモビリティは、どんなモビリティを世に送り出すつもりなのだろうか。

ソニー・ホンダモビリティの代表取締役社長兼COOの川西 泉氏は、昨年取材したインタビューの中で、「クルマというよりモビリティの新たな進化形をどう作り出していくのか。ここに興味があり、従来とは違うクルマにしたいという気持ちが強くある」と語っている。

“従来とは違うクルマ”とはどんなクルマなのか。川西氏によれば「クルマは走り以外の楽しみ方も必ずあると思っており、それを実現するのが自動運転技術。それに支えられてエンタテイメント技術や、それを楽しむためのコンテンツが活かせるようになると思っている」と話す。そこにはAR(仮想現実空間)の活用も含まれるという。

画像: 車内外でコミュニケーションが図れる「Media Bar」を車両の前後に搭載。新たなスタイルのインフォテイメントシステムと言える。

車内外でコミュニケーションが図れる「Media Bar」を車両の前後に搭載。新たなスタイルのインフォテイメントシステムと言える。

クルマにとって移動中の時間をどう過ごすかはとても重要なことだ。もちろん、運転を楽しみたい人もいるだろう。しかし、ロングドライブでずっと運転に集中し続けているかと言えばそうではなく、張り詰めた気持ちを落ち着かせる時間帯は必ずあるはずだ。そこに新たな価値を見出そうというわけだ。

そのためにAFEELAから誕生するモビリティは、多彩なセンサーを車内外に装備することで安全性を担保し、その上でソニーが思い描くエンタテイメントも楽しめる究極の形となりそうだ。

800TOPS以上もの演算性能を発揮するクアルコムの高性能SoCを採用することを発表したのも、将来に向けてこうした処理をスムーズに行うための対応が欠かせなかったからだ。

川西氏はこうも話す。「自動車を作る人たちにとってオーバースペックと捉えられるかもしれないが、これはITのカルチャーだ。今見えていないものに対して、どれだけの可能性を示せるかが重要ということ。その時は良くても将来的に何もできなくなってしまうクルマにはしたくない」

この考え方の背景には、まさにSDVを極めるために価格も厭わず一切の妥協はしないとする、強い意志が感じられる。2025年に受注を開始するAFEELAの第1号はどんな姿を我々に見せてくれるのか。日本発の新しいEVメーカーの動向には大いに期待したい。(第3回へ続く)

●著者プロフィール
会田 肇(あいだ はじめ)1956年、茨城県生まれ。大学卒業後、自動車雑誌編集者を経てフリーとなる。自動車系メディアからモノ系メディアを中心にカーナビやドライブレコーダーなどを取材・執筆する一方で、先進運転支援システム(ADAS)などITS関連にも積極的に取材活動を展開。モーターショーやITS世界会議などイベント取材では海外にまで足を伸ばす。日本自動車ジャーナリスト協会会員。デジタルカメラグランプリ審査員。

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