日本におけるEV販売はここに来て活発化しつつある。低価格な軽自動車EVが登場したことが大きいが、今後はさらに手頃なモデルがデビューするはずだ。さて、どこからどんなモデルが出てくるのか。詳しく見ていくことにしよう。(タイトル写真はBYDの戦略モデル、左から「SEAL」、「ATTO3」、「DOLPHIN」)

300万円台の乗用EVが続々と登場する

2022年に世界62カ国・地域で販売された自動車のうち、EVの販売台数がついに726万台を超え前年比66.6%も増えたという。筆頭は中国で約453万台、次いで欧州が約153万台、北米約80万台(マークライン社調べ)だ。

中国の目覚ましい伸びは補助金効果とも言われているが、2022年末に補助打ち切り後の2023年第1四半期も市場は活発で、矢継ぎ早に投入される新型車やテスラの大幅値下げなども相まって、ユーザーの購買意欲は衰えを見せていない。

翻って日本はどうだったのか。2022年度の国内EV販売台数は5万8813台で対前年比2.7倍、乗用車販売全体に占める割合は1.71%となり、過去最高の伸びとなった。

けん引したのは、日産の軽EV「サクラ(2万1887台)」と三菱自の同「eKクロスEV(4175台)」だった。ちなみに日産「リーフ」は1万2732台で、サクラに次ぐ二番手のポジションにつけている。軽EVの2台は補助金の恩恵により乗り出し価格はガソリンモデルと大差なく、日本でもEVの普及に弾みをつけたのは間違いない。

輸入車を中心にEVのラインナップは増えてはきているが、それでも中心価格帯は400万円台後半〜700万円台。国産車ならばもう少し下の価格レンジから用意はあるが、それでも日産リーフが408万1000円(X:40kWh)〜583万4400円(e+ G:60kWh)だ。「試しにEVでも乗ってみるか!」と勢いだけで購入するにはなかなか高いハードルだ。

だが、EVの価格破壊はすでに始まりつつある。軽EVのことではない。EV後進国と揶揄される日本でも、今後数年のうちに補助金を除く車両本体価格300万円台の乗用EVが続々に登場しそうだ。つまり購入対象として、ガソリン車やハイブリッド車と並べて検討するに値するEVが発売されるのだ。

BYDはガソリン車並みの価格で手に入るモデルも

その先陣を切るのが、2023年夏に満を持して国内発売されるBYDの「ドルフィン」。すでに公開済みのコンパクトカーだが、日本では航続距離386kmの「スタンダード」に加え、本国にはない日本独自仕様としてバッテリー容量とモーター出力を高めて航続距離を471kmに伸ばした「ハイグレード」をラインナップする。

全長4290×全幅1770×全高1550mmでホイールベースは2700mm。ほぼ日産リーフと同じサイズ感であり、航続距離もさほど変わりがない。

画像: 「BYD DOLPHIN」。バッテリーをはじめ様々なところでコストを抑えて低価格を実現。

「BYD DOLPHIN」。バッテリーをはじめ様々なところでコストを抑えて低価格を実現。

ちなみに中国での2023年4月に開催されたバンコクモーターショーで発表されたスタンダードグレードの価格は「79万9999バーツ」。円換算すると約311万円である。バーツ高が続いているので、日本発売ともなれば300万円を切るという可能性もある。さらにCEV補助金が加われば、国産同クラスのガソリン車やハイブリッド車と大差なくなる。

画像: 「BYD DOLPHIN」。インパネまわりも実にスタイリッシュ。

「BYD DOLPHIN」。インパネまわりも実にスタイリッシュ。

なぜここまで安くできるのか。鍵を握るのはバッテリーだ。EVの価格の2〜3割がバッテリー代というのはよく知られているが、BYDのEVには同社が独自に開発・生産するLFP電池「ブレードバッテリー」が搭載されている。

LFPはリチウム電池の一種なのだが、電池を構成する正極材に、一般的なNCA(ニッケル・コバルト・アルミニウム)系やNCM(ニッケル・コバルト・マンガン)系ではなく、LFP(リチウム・鉄・リン)系を採用しているのがポイントだ。

高価なニッケルやコバルトを使わないのでコストを大幅に抑える(NCAやNCMに対して3割も安いという試算もある)ことができる。ましてやBYDはモーターや半導体も含めて自社開発・生産である。外部調達に頼るほとんどの自動車メーカーにとって、これはかなりの脅威だ。

さらにBYDはドルフィンよりもさらに低価格なコンパクトハッチバック「e2」を全面改良して本国で発売したばかり。現地価格10.28万元(およそ198万円?)というから、ガソリン車と変わらない。

また、上海オートショー2023では、4人乗りのコンパクトカー「シーガル」の発売を発表。現地価格は7.88万元(およそ154万円!)から。もちろん日本に輸出するとなれば、諸々の経費が上乗せされるが、それでもスターティングプライスは前車で250万円前後、後車は180万円前後からになると思われる。

どちらも最新のEVプラットフォームにブレードバッテリーを搭載し、急速充電にも対応するなど性能・品質面でも問題はなさそうだ。どちらも日本上陸は、早くとも2024年後半と思われるが、実現すれば日本のお家芸であるハイブリッド車でも太刀打ちできるかどうか。

テスラからは2万5000ドルのコンパクトEV登場

次なる刺客はテスラだ。日本ではプレミアムレンジのEVメーカーという印象が強いが、そんなテスラがいよいよ大衆車市場に参入してくる。通称「テスラ モデル2(またはC)」と呼ばれる、コンパクトモデルが本年中に発表されるはずだ。

モデル2の存在は、ウワサのレベルではすでに数年前からあったが、テスラは正式に回答はしてこなかった。ところが、2023年3月に開催された投資家向けのイベント「2023 Investor Day」において、イーロン・マスクCEOは計画の一部を初めて明かした。

画像: テスラの第三世代プラットフォームによる生産工程。主要部品ごとに塗装を含め予めアッセンブリーしておき、最後に完成車として組みあげる。

テスラの第三世代プラットフォームによる生産工程。主要部品ごとに塗装を含め予めアッセンブリーしておき、最後に完成車として組みあげる。

新たなコンパクトカーは、バッテリーのケースを車体構造部材として使う第三世代プラットフォームを採用。さらに新たな車両組み立て方式(Unboxed Process)、生産工程を圧縮するドライ電極を使った新世代バッテリーの搭載により「総生産コストの半減」を目指しているという。

実車やコンセプトモデルの公開はなかったが、スピーチでたびたびトヨタ・カローラに言及するなど、サイズそして価格レンジともにカローラを意識していることは間違いない。目標価格は2万5000ドル。日本円に換算すると330万円だ。

モデル2は2024年中に発表後、まずはメキシコ新工場での生産を立ち上げ、追って中国・上海、ドイツ・ベルリンでも新たな生産ラインを立ち上げる。日本での発売は2026年前半になるだろう。

フォルクスワーゲンiD.2 allは2026年に販売開始

最後はフォルクスワーゲンだ。先日公開されたコンパクトEVのコンセプトカー「iD.2 all」は、ボディ外寸をガソリン車のポロとほぼ同サイズに抑えながら、ゴルフに匹敵する室内空間を実現している。2026年までには販売開始、その目標価格は2万5000ユーロ(約370万円)以下と発表された。

さらに2026年以降にはもうワンクラス下のベーシックコンパクトEV(「iD.1」?)の発売も控えているという。目標価格は2万ユーロ以下(およそ295万円)というから、これが日本に上陸すれば、補助金込みで200万円台という衝撃的な価格が実現するかもしれない。

画像: 「フォルクスワーゲン iD.2 all」。2026年までに2万5000ユーロ(約370万円)以下を目指して販売される。

「フォルクスワーゲン iD.2 all」。2026年までに2万5000ユーロ(約370万円)以下を目指して販売される。

EV業界をけん引する3大ブランドが、これまでの常識を覆す安価なEVを続々と発表し、これが世界的なEV価格の見直しにつながることは間違いない。事実、ある欧州メーカーの幹部は、自社の次世代EV価格プランの見直しに着手していることを明かしている。

EVの価格レンジは今後間違いなく広がり、とくに低価格化が急速に進む。そしてその鍵を握るのが低価格な次世代バッテリーの普及だ。

続々とやってくる黒船に、迎え撃つ国産自動車メーカーの打つ手はいかに。今後の動向から目が離せそうもない。

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