VWのモビリティシステムは都市でのライドプーリングを想定
VWの取り組みがウェイモやテスラと違うのは、ロボタクシーとしてのサービス展開をはかる両者に対して、都市でのライドプーリングを主眼としている点です。複数箇所でユーザーをピックアップして目的地に向かうライドプーリングは、地下鉄や路面電車、バスなどの輸送を補完し、自家用車から公共交通機関へのモビリティシフトを促します。VWとMOIAは、ハンブルク高架鉄道(Hamburg Hochbahn)や15人乗りの自動運転シャトルを製造するHolonとともに、ハンブルク市がドイツ連邦交通省の支援を受けて推進する自動運転モビリティプロジェクト「ALIKE」に参画しています。
今回のUITPサミットに姿を見せたVWのオリバー・ブリューメCEOは、「SAEレベル4に準拠した自動運転車両から、フリートマネジメントシステム、顧客予約アプリまで統合されたエコシステムで、地方自治体やフリートオペレーターがすぐに稼働できる『ターンキーソリューション』を提供する」と、今後の欧州各地や米国での展開に自信を見せました。
ロボタクシーで先行するウェイモも、以前はミニバンのクライスラー パシフィカを使用しており、今後は現行のジャガー I-PACEに代えて吉利汽車のジーカー(Zeekr)のミニバンを導入するので、ライドプーリングに対応することは可能でしょうが、現状は個人客向けのタクシーサービスとなっています。あくまで低コスト化が可能なロボタクシーを想定する米国と、渋滞の緩和やCO2排出量の削減、交通弱者に優しい都市モビリティへの転換を図るMaaS*を念頭におくドイツや欧州とではアプローチが違います。ドイツは、2023年の夏から月額49ユーロで鉄道やバスなどの公共交通機関が乗り放題という「ドイツチケット(Deutchelandticket)」を全土で導入しており、利用者は1300万人を超えています(現在は月58ユーロ)。
*mobility as a service

MOIAはこれまでVW商用車部門の本拠地ハノーバーやハンブルクで、のべ1200万人にライドーサービスを提供してきた。写真はハノーバーの拠点に並ぶMOIAの車両(VW eクラフター)

ウェイモの第6世代のロボタクシーはZeekrのミニバンとなる(写真はCES2025の同社展示ブース)
自動運転技術のパートナーはモービルアイ
ID.Buzz ADの自動運転技術パートナーはイスラエルのモービルアイで、この車両は13個のカメラ、9台のライダー(LiDAR)、5機のレーダーと計27のセンサーを搭載しています。モービルアイは、ライダーに近い性能(解像度やレンジ)を持つイメージングレーダーも開発していますが、高価なライダーを9台というのは、「安全性第一の考えに基づき、360度の周辺監視の冗長性を確保するため」と筆者の質問に対してMOIA広報は回答しました。ちなみに、テスラはライダーを使わずカメラ12個のみ、ウェイモのI-PACEはカメラ8個とレーダー6機に加えて4台のライダーを搭載しています。
今年1月のラスベガスのCESで、モービルアイのアムノン・シャシュアCEOは、完全自動運転への道程として、ウェイモは安全性重視、テスラは運行領域重視と両者を対極的アプローチとして紹介し、自社はその間を行くと説明しましたが(「CES2025レポート後編」をご参照)、ハンブルクで37平方kmの範囲内を運行するID.Buzz ADに関しては、運行設計領域(ODD*)の広さよりも、安全性を最大限にするウェイモ路線と言えそうです。*Operational Design Domain

ID. Buzz ADのセンサー配置。ルーフ前部にも3台のライダーを備える。ロングレンジ用3台、ショートレンジ用6台の計9台のライダーを装備。自動運転システムは、最近主流のAIによるE2E(エンドツーエンド)開発ではなく、モービルアイが長年培ったルールベースのアルゴリズムが基本と思われる。

4人乗車のID.Buzz ADの室内は乗員やドア付近の障害物、シートベルトや照明の具合などをモニターするシステムを備える。

HOLONは、オーストリアの大手部品メーカーのベンテラー(Benteler)が2022年に設立した。ハンブルクで運行するシャトルは5人乗りで最高速60km/h。車イス乗車にも対応する。