※米国・メキシコ・カナダ協定
自動車ローン金利の税額控除も抱き合わせ
もうひとつ、トランプ大統領は自動車購入促進策として、ローン金利の税額控除を挙げました。大統領執務室にメディアを集めた会見では、「マイクはどこだ」と共和党リーダーで下院議長のマイク・ジョンソン氏の名を呼び、本人を認めると、この税額控除法案を議会で迅速に通すよう促しました。議会と政府は本来、独立して動くはずですが、まるで大統領の執行機関のような扱いです。
本関税へのイーロン・マスク氏の関与についての質問には、「イーロンは彼のビジネスに利する政策を融通してほしいと言ったことは一度もない」と、ここでもマスク氏のインテグリティへの信頼を示しました。「米国の消費者は、EVでも、ガソリン車でも、ハイブリッドでも好きなクルマを買える」と強調するトランプ大統領は、「テスラはテキサスとカリフォルニアに大きな工場を持っており、関税の悪い影響はないだろう」と見ています。
マスク氏の米国政府での振る舞いや、ドイツの極右政党支持といった政治への関与の影響もあって、テスラは2025年に入って欧米や中国での販売を急減。第1四半期の締めにあたる3月は、米国でモデル3の60カ月ローン金利ゼロ(5000ドルの節約!)キャンペーンを実施して販売テコ入れに必死ですが、ほかの自動車メーカーに比べれば関税の影響は少ないようです。

執務室にメディアを招き入れて自動車輸入関税を発表したトランプ大統領。本気で米国の製造業の復活を目指しており、関税は「恒久的」だという。(FOXニュース配信動画より)
米国の「解放の日」は本当?
トランプ大統領の考え方は至ってシンプルです。
― すでに25%の関税を発動した鉄鋼やアルミ、自動車産業は防衛産業にもかかわり、米国の地政学的競争力に不可欠だ。
― 米国を再び偉大にするには製造業の復活は欠かせない。自動車パーツが国境を何度も移動するのは馬鹿げている。パーツも米国内で作れば良い。
― 米国の工場で生産すれば、関税はかからない。デトロイト3は米国の生産能力に余裕があり60%しか活用していない。
トランプ大統領は、4月頭に発表する相互関税については、製薬や木材などを含めた相殺関税になるが、その利率は寛大な(lenient)ものになると発言しました。自動車関税を先に発表したのは、特にその重要性を意識してのことでしょうが、相殺関税は、果たして相手国の税率より低い(寛大な)ものになるのかどうか。
「MAGA(Make America Great Again/米国を再び偉大にする)」を進めたいトランプ大統領にとって、自動車産業を含む製造業の復活が中心的なテーマのひとつであることは、今回の関税が「恒久的(permanent)」であると明言したことでハッキリしました。しかし、労働コストが高く、サプライヤーは人手不足・・・そんな状況の米国で本当に製造業は復活できるのか、これから数年経たないと分からないでしょう。
4年後にトランプ大統領と同じ考えの後継者がホワイトハウス入りするかどうかにも左右されますが、米国の「アメリカファースト」への回帰が本質的かつ不可逆的なものであるとすれば、自動車メーカーやサプライヤーは、それに向けた戦略の練り直しが必要になります。また、インフレ圧力がさらに高まると予想される米国の消費者は、トランプ大統領が豪語する「解放の日(Liberation day)」とその後の推移を、狐につままれた気分で見守ることになりそうです。(了)
●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在を経て、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年ヴイツーソリューション)がある。