2025年3月5日(現地時間)、フォルクスワーゲンはAセグメントEVのコンセプトモデル「ID.EVERY 1」をワールドプレミアした。その量産モデルは恐らく「ID.1」と名付けられ、約2万ユーロという低価格で2027年から欧州で発売される。しかし、この完全電動のシティコミューターの価値は、小さくて廉価なEVというだけではない。公式発表ではごく簡単にしか触れられなかった、とある事実を深堀りしてみた。(タイトル画像は3月5日に世界初公開されたコンセプトカー「ID.EVERY 1」)

フォルクスワーゲンが欧州市場に投入する初の本格SDVが「ID.1」

さて、ここからが本題である。発表されたプレスリリースには「常に最新の状態:新しい強力なソフトウエアアーキテクチャにより、生産モデルの生涯にわたる更新とアップグレードが可能になります」とある。あまりに簡単に書いてあったので危うく見逃すところだったが、この短い一文に今後のフォルクスワーゲンのEV戦略が予告されている。

画像: ID.EVERY 1、最高速度は130km/h、航続距離は250km以上。シティコミューターには十分な性能だ。

ID.EVERY 1、最高速度は130km/h、航続距離は250km以上。シティコミューターには十分な性能だ。

つまり、いま世界中の自動車メーカーが熾烈な開発競争を繰り広げている「SDV(Software Defined Vehicle)」である。メルセデス・ベンツが同社初のSDVとなる新型CLAを公開し、2025年後半にはBMWやソニー・ホンダからも次世代EVとして発売されるが、いずれも廉価なクルマではない。

対してフォルクスワーゲンは、もっとも廉価なエントリークラスからSDVモデルを投入するという真逆の戦略に打って出るわけだ。価格を抑えたエントリークラスからSDV化を開始して、まずは欧州の若年層を中心に支持を得て、その後グローバルモデルのSDV化を加速させていくというロードマップである。

画像: 実用性とデザイン性を兼ね備えたインテリアは実際のサイズ以上に開放感がある。

実用性とデザイン性を兼ね備えたインテリアは実際のサイズ以上に開放感がある。

グローバルモデルのSDVアーキテクチャーは米リヴィアンと共同開発

SDVは、その開発に膨大な投資が必要とされている一方で、いったん軌道に乗れば生産コストは大きく下がる。フォルクスワーゲンもソフトウエア開発子会社の「CARIAD(カリアド)」を2020年に立ち上げたが、2023年から2024年にかけて海外パートナーとの提携も進めている。

中国では上海汽車(SAIC)との提携を延長して合弁会社を設立。現地で開発された「コンパクト・メイン・プラットフォーム」(CMP)をベースにした初のSDVを2026年にも発売する予定だが、あくまで中国専売車だ。

対して、グローバルモデルのSDVアーキテクチャー(E&Eアーキテクチャー)は、米国のEVスタートアップ企業「リヴィアン・オートモーティブ(Rivian Automotive)」との共同開発となる。同社はすでにR1TピックアップとR1S SUVでSDV化を実現しており、多大な知見とノウハウを蓄積している。

画像: 2024年11月12日に誕生した「リヴィアン・アンド・VWグループ・テクノロジー」社。同社によるSDVアーキテクチャーは、近い将来、アウディやポルシェなども採用する。

2024年11月12日に誕生した「リヴィアン・アンド・VWグループ・テクノロジー」社。同社によるSDVアーキテクチャーは、近い将来、アウディやポルシェなども採用する。

フォルクスワーゲンはリヴィアンに対して8900億円という巨額の投資(2024年11月12日)を行い、「リヴィアン・アンド・VWグループ・テクノロジー(通称:JV)」社を設立している。最先端のソフトウエアとエレクトロニクス・アーキテクチャーの共同開発を行い、まずは2026年にリヴィアン・ブランドの新型車「R2」を発売、続く2027年にはフォルクスワーゲンブランドの次世代EVに新会社の技術を採用すると発表している。この2027年に登場するのが「ID.1」というわけだ。

画像: 2026年に納車が始まるリヴィアン「R2」。すでに受注は始まっている。

2026年に納車が始まるリヴィアン「R2」。すでに受注は始まっている。

開発に莫大なコストがかかるSDVゆえにそれを搭載するのは高価格帯の車両と相場は決まっていた。しかし、エントリークラスの量産車からSDVを普及させるというフォルクスワーゲンの選択は、多くの自動車メーカーのEV戦略に見直しを迫ることになるだろう。折しも欧州EV市場には、今後数年のうちにA~BセグメントのエントリーEVが続々投入される。恐らく、そのなかで唯一のSDVとなる「ID.1」の競争力はとてつもなく高いはずだ。EV開発競争は意外な伏兵(?)の登場で、さらに加速していくだろう。

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